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交錯編-覚えてろよ…風見

 空気の揺れを感じる。

明らかにスピーカーから出ている物ではなく、人混みから細かく人為的に発せられている場所に、私は迷う事なく突き進んだ。そして


「久しぶりね」


「か、ざみ…」


絶句した様な表情を浮かべるナギ。手には見覚えのある器具を持っていた。やはり、此処から支持を出していたのか。

ナギがいたのは、会場近くに出店されていた屋台の一つ。屋台と言うより立ち飲み屋やパブに近く、店内には大会の中継が映されていた。

客や店員がどことなくガラが悪い。警戒する様に私にチラチラと視線を向けてくるが、私は気にする素振りも見せず、ナギがいるテーブルに近付いた。


蛇に睨まれた蛙の様に動かないナギは、憎々しげに私を見る。


「お前が私を追う理由が見当たらないんだけど」


「そうね…今は敵対してないし?」


とニッコリ作り笑いを浮かべ、私は一歩ナギに近付く。それと同じタイミングで、ナギが後ろに一歩下がった。

私は追い詰める様に、もう一歩進む。


「鵠沼総帥の命令で来ただけだし?ルカみたいにあんたに執着してもいないし?」


「なら、見逃してくれるーーー」


「わけないでしょ」


私は無慈悲に断言すると、一気に距離を詰めた。ナギは舌打ちをして、テーブルを私に向けて足蹴りする。


「相変わらず、行儀が悪いことでっ!」


ぶつかってきたテーブルを除けると、私は外へと飛び出すナギを追いかけた。

何処となくデジャブ感があるこの構図。私は何故か嬉しくなる。


「今度は逃さないわよ!」


と、魔法を発動させる。


「樹々よ!」


近くに生えていた樹から枝が伸び、ナギを捕らえようとする。ナギは軽業士の様に飛び跳ねたり、枝でクルッと逆上がりの様に回って避けたり器量に逃げる。そして


「この人混みで魔法を使うなよ!」


と、人混みへと逃げ込もうとした。しかし、


「なら、人を巻き込まないようにしなさいよ」


と、私は腕を上げるとナギに指先を向けた。

風がナギを追う。


「周囲の!迷惑を!考えろっ!!」


とナギが悪態を吐きつつ、身を屈めた。ブワッと砂埃が津波のように周囲を巻き込んでナギを襲う。

周囲が砂嵐の状態になってしまい、顔や頭を守る様に地に伏せるナギ。私は自分の周囲だけ風を止ませ、ナギに近付いた。


「チェックメイトよ、ナギ」


「!!」


そう言って、私はナギの髪をグシャリと掴む。無理矢理顔を上げさせられたナギは憎々しげに私を睨んだ。


「覚えてろよ…風見」


「下準備のないあんたに、私が負ける筈ないでしょ」


そう、今まではナギにアドバンテージがあった。故に負けていただけで、これが本来のカタチなのだ。


「この状況じゃあ自己流詠唱も出来ないでしょ。頼みの綱はもうないわよ」


そう言うと、ナギはフッと鼻で笑ったのだった。


「忘れたのか?こっちにも転移能力者がいる事を」


「!!」


目を見開き、私は咄嗟に周囲を確認した。そして


「風見、すまない」


その瞬間、ナギは姿を消す。


「…てっきり、フェアリーリング(ルカと同じ)だと思っていたわ」


もしルカの兄弟がナギに手助けしたとしても、妖精の輪つまりワープホールに通過させなければいいと思っていた。

憎々しげに呟く私の足元に、何処からか飛ばされてきたのか一枚の写真がヒラリと舞っていたのだった。





 俺は小切手を懐に仕舞うと、周囲を警戒しながら日向達と合流する為にステージから降りた。

出入り口に向かう道は途中で観客席の人集りと合流しており、まだ人でごった返している。

すられないよう注意しなくては、と思って人混みに入ろうとした矢先だった。


「ちょっといいか?」


「……」


呼び止められたその声に、俺は固まる。鼓動が速くなり、逸る気持ちを抑えつつゆっくりと振り返った。

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