交錯編-見つけられるかだが…
「ステラの能力は、波長か」
とある誰かを彷彿させるが、取り敢えず置いておこう。
俺は観客席で一人呟いた。風見はなんだか落ち着かないらしく席を立ち、別行動である。
実際、ステラが空間系能力者である可能性は低いと考えていた。空間系能力者は稀少であるうえに、ルカの双子の兄弟がいる。となれば、自然に一回戦目の転移魔法はルカの兄弟によるものだと考えていいだろう。
だがソレは憶測でしかない。
それこそ空間系能力者は少ないとは言え、二人ともそうだと言う可能性はゼロではないのだ。
しかし、
「ルカの奴が魔道具を使った事で、能力は確定した」
ルカは出題前に、身に付けていた魔道具を発動させた。それは霰師匠の遺産の一つ、波長を発生させる物だ。
「俺自身は答えが分からなかったが、ルカが解ける問題にナギが間違えるとは思えない」
ましてやステラの回答は、1/2。論理問題と言われているのに、そんな単純な回答をあのナギがする筈がない。
おそらくナギは、総帥室に乗り込んできたあの日にアルカナ派が開発した探査機を入手したのだ。そして、何処からか回答を波による通信でステラに教えていたのだろう。それをルカの魔道具で妨害したのである。
「さっきの対戦相手の妨害は、ステラが側で逆位相でも発生させてたんだろうな」
流石に、対戦相手から遠い位置にいるナギが出来るとは思えない。だがステラが波長能力であるならば可能だ。
「二回戦目は読み上げ問題だったからステラに妨害されたが、今はスクリーンに映し出されているしな…」
おそらくルカの耳には、問題文を読み上げる司会の声が聞こえていないだろう。だがスクリーンに問題文が映し出されているお陰で、問題はない。
「あとは風見がナギを見つけられるかだが…」
この3年間の戦歴を鑑みるにーーー逃げられるだろうなぁ、と俺は溜息を吐いたのだった。
『二人とも一勝一敗!次で優勝者が決まります!』
司会が抑揚を付けて話す。俺は再び、腕輪に手を伸ばしーーー不意に思った。
ステラとの勝負では、俺が勝つだろう。だが、ナギとは?
言い訳に聴こえるかもしれないが、一問目は集中していなかった。もし真剣にナギと勝負した場合、俺はナギに勝てるだろうか?
この数年、俺だって色んな事を学び、知識だって増えた。それに地頭は元々ナギよりも良いと自負している。
なによりーーーと俺は拳を握った。
俺の片割れも同じ空間系能力者だったとして、そいつよりも俺の方が優秀だとーーー付加価値があると思って欲しい。
俺を置いていった事を少しでも後悔させたい。
そう思った時、司会が叫んだ。
『最終問題は、少し形式が変わります!』
と言って、俺とステラの間にテーブルが運ばれてくる。その上には1から9の数字が書かれたカードが載せられていた。
『9枚のカードからランダムに2枚ずつ配ります。残ったカードの合計を発表するので、相手のカードの組み合わせを回答して下さい!』
そう言って、シャッフルされたデッキから3枚ずつ配られる。そして残ったカードの数字を確認すると、スクリーンに数字が表示された。
『29』
頭の中で1から9までの合計を計算し、29を引く。ステラと俺の手札の合計は16。
次いで配られた手札に視線を落とす。
ーーー1と6。合計は7。
ステラ…ここではナギと思おう。ナギの手札の合計は9。つまり『2、7』か『4、5』の組み合わせの筈。
確率は五分五分ーーーと思った瞬間、俺は目を見開く。ステラの表情が訝しげに歪んでいた。
まるでナギからの応答がない事に苛立っている様だ。
今回、俺は何もしていない。それはステラも分かっている。
つまりナギはこの答えが分からないのだ。そう確信した瞬間、俺は回答ボタンを押していた。
「2と7だ」
『正解!優勝はルーカスに決定しましたっ!!』
司会が高らかに叫ぶ。ステラは「なんで…」と呟きながら、俺を驚愕する様な目で見た。
その様子に、俺はーーーステラだけでなくナギに向けて解説してやる。
「手札が4と5なら、ナギ…じゃなくて、お前はすぐに俺の手札が1と6だと分かる筈だ。だが『2、7』だと、俺の手札は『1、6』か『3、4』の二択。断定出来ない。つまり、ナギ…じゃなくてお前が即断出来ないと分かった時点で、俺は2と7だと確信したんだよ」
「……」
俺の言葉に、ステラは苦々しげに睨んできた。裏腹に俺は内心でガッツポーズを取る。
ナギに勝ったーーーこの事実がなんとも心地良い。
そして同時に、得も言えぬ感覚が湧いた。
何か変わるんじゃないか。もしかしたら、ナギが現れてくれるんじゃないか。淡い期待が過ぎる。
司会に促されステラは嫌々ながらステージから降りると、俺は賞金の小切手を受け取った。司会はそのままの流れで閉会式を行い、大会は終了する。
次回、場面が変わって久しぶりに主人公が登場します。