☆待てえぇぇ!!
本編スタート
たまには遊んでもいいよね、と独特の匂いに包まれながら、私は思った。
私は現在、源泉の町にいた。源泉の町は水の国にある有名な温泉街であり、次の目的地・風の国の近くにある。
清流の街を後にした私は、駄々を捏ねて使わせて貰った転移装置のお陰で、予定より早く首都・水源の街に着いた。が、それだけではない。
思いの外、同盟が順調に締結したのだ。それにより、予定よりだいぶ早く切り上げられた。
このまま風の国に向かえば、更に予定は繰り上がるだろう。早く元の世界に帰れる。
が、清流の街程ではないが、この都市もなかなか観光しがいがある街なのだ。と言うか、水の国は観光地が多い。
少しくらい……一ヶ所ぐらい観光気分を味わってもバチは当たるまい。
と言うことで、私は温泉に浸かっていた。
「相変わらず、湯舟に浸かれるって最高っ!!」
ビジネスホテルに泊まってばかりだったので、久しぶりの湯舟に私は歓喜する。側にあった説明書きには湯の効能が書かれており、どうやらこの湯は硫黄泉らしい。だからあの独特の臭いがする訳か。
夕方前と言う、入浴には早過ぎる時間な為か、殆ど貸切状態である。部屋にも露天風呂が付いているのだが、大浴場の方に来てみて正解だった。
湯舟に漬かり、極楽、極楽…と完全に心身は緩みきる。
そう、私は完全に油断していた。
そんな事を許してくれる程、理は甘くはないのに。
温泉を満喫した後、私は温泉街に繰り出していた。
至る所に風鈴が飾られており、風が吹く度にチリン…と風情のある音が鳴る。店にはお土産用にビードロやグラスなど、ガラス細工が並んでいた。
季節柄、風鈴が半分ほど置かれているようだ。
「お、これ綺麗」
ガラス細工の星が付いたストラップを見つけてる。折角だし買って行こうかな、とそんな事を考えていた私は、前から走ってくる存在に気が付かなかった。
「いてっ」
「悪いっ!」
走ってきた男が一応、先に謝る。普段なら無言で大外刈りをしているところだが、上機嫌な私は「大丈夫よ」とニッコリと返そうとした。が、相手はそのまま逃げるようにダッシュした。
流石に失礼では?と思って、折角の気分が悪くなる。すると
「君!こっちに人が走ってこなかったか!?」
後からきた女性に声をかけられた。私の元で止まると、俯いて息を整える。
どうやら浴衣で走ってきたようだ。
ハイ、先程ぶつかりましたが。と応えると、相手は「ホントか!?」と顔を上げる。
そして私達はお互いに驚愕した。
相手は赤い目をまん丸にする。そして私は黒い瞳をパチクリさせた。
何故ならお互いに、顔だけでなく髪の色も同じそっくりだったからだ。
「え……?どう言う事?」
と呟く私に、相手はハッとして
「君!財布とかスられてないか!?」
どうやら私と髪色がソックリの彼女は、先程の男に何か盗まれたらしい。そして私も
「……ない」
財布はあるが、別の物を取られた。
「待てえぇぇ!!」
気付いたら、私は大声を上げて男を追いかけていたのだった。
今回の話は所々に、嘘が紛れ込んでいます。
注意してお読み下さい。
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7/10 19時
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