交錯編-現れる場所?
ヒュエトスは優雅に紅茶を楽しんでいた。対照に、先程やってきた訪問者達は全員仏頂面だ。
どこか既視感を覚え、私はつい微笑を浮かべてしまった。その様子に、風見の眉間に更に皺が寄る。
私はわざとらしく咳払いをすると、口火を切った。
「いつからアルカナとミネルバの梟は手を組んだんだ?」
「人工能力者の開発、自己流詠唱の研究が必要なくなりましたので。再びミネルバはアルカナの連結組織になりました」
淡々と説明するルカに、私は「ふむ」と頷く。
そして早々に本題を切り出したのだった。
「深奥の場所は無理だが、ナギが現れる場所なら教えよう」
「現れる場所?」
ルカが訝しげに尋ねた。風見はボソッと「なんで深奥の場所は秘密なのよ」と呟いたが、無視をしようと決める。
「3日後に疾風の国主催の年間行事が催される」
「あの低俗な大会ですか?ーーーもうそんな時期か」
ルカの言葉に、私は再び既視感を覚える。ルカは努めて丁寧な言葉遣いをしているが、あの師ありて…とはこの事か。
低俗とは酷いな、と苦笑して私は言葉を続けた。
「ナギはそれに出るらしい。これは確かな情報だ」
「ナギが?何の為に?」
日向が疑問を口にする。
「賞金目当てかしら?まさか軍資金として?」
と、明後日の事を呟く風見。ルカと日向は検討もつかない、と唸っている。
「参加締切は今日、参加者が発表されるのは当日だ」
煽るように言う私に、ルカは取り敢えず考えるのを保留にしたのか、溜息に近い吐息を吐いて
「どんな目的があるのかは分からないが、ナギが出るのであれば、俺達も参加するまでです」
その言葉を聞いた私は、内心で笑みを浮かべたのだった。
ルカ達との面会の1時間前、私は優雅に紅茶を楽しんでいた。対照に、正面に座る訪問者は折角整った顔をしているのに仏頂面である。
かちゃりっとカップを置くと、私は漸く口を開いたのだった。
「条件がある」
「条件?」
ピクリッとナギが反応する。更に眉間の皺が寄るのが分かった。
その顰めっ面が、余計に私を楽しませると分かっていないようだ。私はクスッと笑うと言葉を続けた。
「3日後に疾風の国主催の娯楽大会があるのは知っているな?」
「毎年やってる、あの低俗な大会か」
ナギは一瞬「それが何?」と訝しげ、次の瞬間ハッとした。
本当、頭がいい奴は理解が早くて助かる。
私の意図が理解出来たナギは吐き捨てる様に言った。
「あんなのを催す前に、国の公共事業やら保障の充実化を図った方がいいのでは」
「娯楽も必要な事だ。況してや国が主催だから安心して参加出来る」
私の言葉にナギはハッ!と鼻で笑った。
「カジノを作れとは言わないが、少しくらい賭博関係を認めたらどうだ?」
「この国の治安維持がまだ万全ではないし、それだけではない」
ナギは訝しげに眉を顰めたので、私はわざとらしくコホンッと咳払いした。
「他国にーーー」
「他国に財政が不安と悟られない様にする為、とか言うなよ?」
「……」
ナギに言おうと思っていた言葉を言われ、私は黙る。その様子にナギは呆れに近い溜息を吐いた。
「毎年開催している娯楽大会を開かない。=ソレを行う余裕が国庫にない、と他国は勘繰る。それを隙と思われない為に、無理をしてでも開催するって所だろう?」
ナギは深い溜息を吐いた。
「この大会は優勝者には賞金が出る。それを手に入れて資金にしろって?」
「どのみちお前が要求してきた内容には、莫大な金がかかるんだ。お互いに利益になるならいいだろう?」
私の言葉に、ナギはケッと面白くなさそうな顔をした。
「金額が足りるとは思えないけど」
「たとえ端金だろうが、国庫から出る金額は少ない方がいいだろう?」
得意げな笑みを浮かべる私に、ナギはギロリと睨んだ。
「言質は取ったからな。賞金分しか出さない、なんて後々言ってくるなよ」
ナギの言葉に、私はわざとらしく首を竦めたのだった。
「状況が変わらなければ、な」