小噺
遠くから見るとピンクなのに、近くで見ると白に見える。
俺は一人、レジャーシートの上に寝転んで下から桜を眺めていた。穏やかな休日の正午。気温も風もちょうど良く、花見にはうってつけである。
「ルカ、場所取りありがとう」
と、俺の頭側から覗き込む様にナギが声を掛けた。「来たか」と俺は上半身を起こす。
ナギは肩掛けのクーラーボックスを持っていた。
「料理は、日向達が持ってくるってさ」
トンッと地面に置きつつナギが言う。靴を脱いで俺の隣に座ると、リュックからウェットシートや割り箸、紙皿を取り出した。
「喉渇いただろう?」
そしてクーラーボックスからペットボトルを取り出す。俺は礼を言って、蓋を開けた。
「アイツら、どれくらいで来るんだ?」
喉も渇いたが、腹も減ってきている俺はナギに聞いた。ナギが来たと言う事は、もうそろそろ来るのだろう。
ナギは「うーん…」と煮え切らない様子で唸った。
「色々とリクエストしたからなぁ」
「……」
ナギの言葉に、俺は先日ナギが風見に頼んでいた内容を思い出す。
ちらし寿司に肉巻きアスパラ、だし巻き卵、唐揚げ、つくねなどなど…つい「茶色と黄色ばかりだな」と言ってしまい、睨まれた。
「小腹を満たすくらいなら、少し食べても平気でしょ」
と、ナギがリュックから何かを取り出した。割り箸と共に渡されたのは、少し歪ないなり寿司のパックである。油揚げに中身を詰め込み過ぎたのか、パンパンだ。
「誰が作ったんだ?」
「…聞くな」
そう言うナギはそっぽを向く。その様子から察した俺は嬉しさ半分、戸惑い半分と言った心境で口に入れた。
中はシンプルな酢飯だ。ーーーいや、
「白ゴマが入ってるのか。旨いな」
「…そう」
素っ気ない返事をするナギ。頭を俺に傾け、俯いている。
チラッと盗み見ると、口元が緩んでいた。
ーーー素直じゃないな
その様子が愛おしいとも思うけど。
その後の会話はなしーーー俺達は無言で桜を眺めた。
だが、それを苦しいとは思わない。穏やかな陽気に、暖かな風が頬を撫でる。
暫くすると、ナギから寝息が聞こえて来た。完全に俺に寄り掛かる。
俺はそっとナギの頭を撫でると、胡座から脚を前に伸ばした。ナギの身体をゆっくりと下へと倒し、膝枕の状態にする。
「ん…」
と、ナギが声を出すが、それでも起きない。
俺は微笑を浮かべ、ナギの頭を撫でた。艶やかな髪を梳く。
「ナギ…」
こんな所を風見に見られたら、睨まれるだけじゃ済まないだろうな、と思いつつも俺はやめない。
「…ルカ?」
暫くそのまま過ごしていたら、ナギが起きた。どうやら眠りは浅かったらしい。
自分の体勢に驚き、目を丸くして俺を見上げる。
「え?どうしてこんな事になってる??」と戸惑ってる様子が可愛くて、俺は悪戯心が湧いた。起き上がろうとするナギの頭を軽く押さえつけ、頭を撫で耳朶に触れる。
「ーーーっ」
ナギは顔を真っ赤にしつつ、少し恨めしそうにーーー恥ずかしそうに俺を見た。しかし俺はどこ吹く風だ。
仕方なしナギはそのままの状態でいると、眠気に抗えなかったのか、再びウトウトし出した。規則正しい寝息が聞こえてくる。
俺はナギの頬や艶やかな髪を梳く様に、優しく撫でながら花見を一人楽しんだ。いや、始終見ていたのは花ではなく、ナギの寝顔だったが。
最終的に、風見達が来るまで俺達はそのまま過ごしたのだった。
次回は本編です。