交錯編-短い悪足掻きだったな
場面が変わります。
アテナ様との契約後、私はコッソリと村を出ようとした。風の檻の向こうには、私の支援者がいる筈だ。
しかしそれは失敗に終わる。
「何故…生きている」
「……」
他の村人に見つかり、私は捕らえられる。村長の目の前に連れてこられ、頭を地面に押さえつけられた。
苦しい体勢のまま、私は「アテナ様に助けられた事」を説明する。そして
「…殺せ」
村長は静かに言い放った。
「ネージュの死体は確認した…おそらくお前が話した通り、上位存在が絡んでいる事は確かなのだろう」
だが、と一度言葉を切り、無表情だった顔に怒りが浮かぶ。
「たとえ神の眷属になろうと、お前を生かしておく理由にはならない」
それは『子を殺された親』の怒りであり、
『村への脅威になる火種を消そうとする』村長としての義務感から来るものだった。
村長は淡々と述べる。
「神の眷属を殺して、神の逆鱗に触れる事はまずない」
何故なら眷属になると言う事は、神から“寵愛や祝福”を受けると言う事ではなく、“試練”を与えられると言う事だから。
理の力で、本来叶う筈のない願いを叶えて貰う為の試練。
故に、その途中で試練に関係ない事件や事故に巻き込まれて死んだとしても、上位存在は気にしない。
私は声を張り上げて抗議した。
「私は育ててもらった事を、仇で返したりしません!」
「口では何とでも言える」
村長は近くにいる者に斧を持ってくるよう指示し、受け取るとゆっくりと近づいて来た。
「…短い悪足掻きだったな」
「!!」
私は歯を食いしばる。嫌だ、嫌だ、死にたくない。
いくら言葉を尽くそうと、誰も信じてくれない。
信じて貰うには、どうすればいい?
ーーーなら、証明すればいい。
どう証明すればいい?
ーーー証拠があればいい。
その証拠がない。
ーーーなら、証拠がなくても証明すればいい。
どうやって!!
その瞬間、血ではなく別のものが全身を巡った。
顔を押さえつけられている為、視線だけを正面に向けると、村長がゆっくりと斧を振り下ろしていた。
世界がスローモーションに見える。
そしてーーー頭にある言葉が浮かんだ。
「支配の杖ーーー操帝」
呟いた瞬間、手に身の丈以上の杖が現れる。そして全員が固まっていた。
「な、ぜ…お前は低級のーーー」
風使いだった筈。そう呟こうとする村長。
私は戸惑いつつも、杖をギュッと握って私を押さえつける村人の身体を退かした。
ヨロヨロと産まれたての子鹿の様に立ち上がると、杖を支えに私は初めて宣誓したのだった。
「私は育ててもらった事を、仇で返したりしません。私はーーー」
言うべき事を言うと、私は踵を返して出ていった。
その様子を、アテナは愉しげに観ていたのだった。