交錯編-これは貰っても?
事前に何も知らせていなかったソルは狼狽えたが、ムカつく事に奴は相変わらず無表情である。
私は内心面白くなかったが、淡々と言った。
「現在、この村で起こっている問題を解決しろ」
そう言って私は資料を渡す。奴は一瞬だけ怪訝そうに顔を顰めたが、すぐに真顔に戻り、資料をパラパラ捲った。奴の後ろからソルが覗くーーーが、奴の速読についていけなかったのか、すぐに諦めた。
粗方情報が頭に入ったのか、奴は資料を閉じると
「これは貰っても?」
と聞いてきた。私はジロリと睨み、鼻で笑う。
「この程度の情報を記憶出来ないとは。やはり見込み違いか?」
「…分かりました。お返しします」
渋々と言った様子で、奴は資料を私に渡した。が、
「私の能力を忘れないで下さいね」
と強気な口調で改めて奴は言った。意図が分からず、私は眉を顰める。
奴は察したのか、少し間を開けて補足したのだった。
「今頂戴した情報が故意に間違っていた場合ーーー私はそれを証明出来ると言う事を、お忘れなきよう」
「…あぁ、しかと胸に留めておこう」
漸く理解した私は歯軋りを我慢して淡々と答える。
つまり、奴が初め資料を手元に置こうとした理由は、私が情報を改竄しないよう阻止する為であったということだ。
「あなた方が私を信用していないように、私も信用していないと肝に銘じておいて下さい」
そう言い残すと、奴は部屋を後にしたのだった。
ゲフリーレンは「私の主観だが」と前置きをした。
「ネージェ達は弄ばれたのだと思う」
「弄ばれた?誰に?どんな風に?」
俺の問いにゲフリーレンは「お前は何処まで聞いている?」と問うた。
「ナギが俺の身代わりとして、ネージェに殺されかけたって事ぐらいだ」
「…なら、ネージェの助言者の事は聞いていないのだな」
「助言者?」
俺は初めて出てきた単語に首を傾げる。ーーーそしてハッとした。
そう言えば、
『規則の編み目を縫って、死なない様に裏で動いていた。
だから、今、村の外ーーー風の檻の近くに人が待っている』
『だが、村長にバレてしまった』
「当時ナギを保護する筈だった人物は、実は裏切り者だった…?」
俺の言葉にゲフリーレンはなんとも言えない表情を浮かべた。
「其奴は…裏切り者に“なってしまった”だけだ」
「……」
俺は混乱してきて、頭を抱える。その姿に、ゲフリーレンは「話が跳躍し過ぎたな」と反省する様に言った。
「助言者も、協力者も一旦忘れろ」
「忘れろって…」
無責任な!と噛みつこうとした俺に、ゲフリーレンは先手を打った。
「知識に重きを置く上位存在によって、ナギの能力は変化したと私は考えている」
知識欲、上位存在ーーーその単語に戦慄する。まさか、と俺は青ざめた。
「全ては、アテナ様の戯れと言う事か…?」
「…私はそう見ている」