交錯編-何年ぶりだ?
『俺が何処の誰か忘れたのか?』
その問いが頭の中で繰り返された。
何処のーーー人工能力者保護組織ミネルバの梟の。
誰かーーーミネルバの梟を任された人物。
「支援者貴族の中で何人かクズーーー嗜好異常者がいたのは認める。また、放置するつもりもないから安心しろ」
「ただし公にせず秘密裏に処理か軽度の処罰で、って所か」
ルカは鼻で笑う。
「氷雪の国は王政。パンタシアの様な独裁国家が潰された直後だ。貴族のスキャンダルを皮切りに『氷雪の国も王政廃止に!』と立ち上がれたら面倒だしな」
「……」
ルカの言葉が刺さる。しかしそれは痛い所を突かれてと言うよりも、侘しさに近かった。
ーーーあの師にてこの弟子あり、とはこの事か。
私は観念し、一度目を閉じた。そしてゆっくりと開くと、ルカに真剣な眼差しを向ける。
「紫の能力が変わった、と言ったな」
「…あぁ」
それがどうした?と訝しげな表情を浮かべるルカに、私は言ったのだった。
「ナギの能力も、元は別の物だったんだぞ」
魔力は防衛機能を持っている。
では、どのような形にーーー自身を守るのに適した能力になるのか。
その答えは”本能的に“であり、”潜在的に“決まるのである。
嘗ては追い風に乗って駆けていた。
「ここに戻ってくるのは、何年ぶりだ?」
村の入口に現れた私に、ルカにそっくりな男が意地の悪そうな笑みを浮かべて言った。私の反応を見ているのが分かる為、代わりに嫌味を言ってやった。
「転移系能力にしては、お前の能力って不便だよな」
「悪かったなっ!けど、あいつの能力じゃ此処には入って来れないぞ」
ソルの言う“あいつ”とは、弟の事だ。
確かに、ルカは行った事のある場所にしか転移出来ないし、高位の風使いでもない為、風の檻の奥にあるこの村ーーー深奥に辿り着く事は出来ない。
「お前だって、今は自力じゃ入って来れないだろ」
だから俺に感謝しろ!と威張るソルを無視して、私は村へと入っていったのだった。
戻りました、と告げる声は懐かしくーーー恐ろしいと思う。
「…帰ったか」
「お久しぶりです。私が誰か分かりますよね」
改めて聴いてくる此奴を、ジロリと睨む。
後ろにいたソルは虎に睨まれた様に竦み上がるが、当の本人は全く動じずに淡々と言った。
「息災で何よりです。それでは本題にーーー」
「待て」
私は奴の言葉を遮った。奴は訝しげに私を見やる。
私は咳払いをすると、眼力により力を入れて言ったのだった。
「まずは、お前が我々を裏切るつもりはないと宣誓しろ」
10何年振りに会う人物をそう易々と信用してなるものか。
私の言い分を察したのか、奴は「フルメンを通して、何度かやり取りしている筈だけど」と言いつつ面倒臭そうに宣言する。
「私の目的は今も変わらずーーー」
宣誓されたその言葉に私は安堵するーーーが、
「お前の価値が変わっていないか、試させて貰うぞ?」