小噺②
ミステリー要素ゼロ
また、筆者は猫を飼った事がございません。
間違った表現があるかもしれません。ご容赦ください。
ある晴れた日の午後の事だ。
ナギは午前中、珍しく訓練が入っていた。
訓練が終わったであろうタイミングでナギに会いに行って行くと、ナギが猫を抱えていたのだった。しかも黒猫を。
「城に迷い込んで保護されたんだけど、ずっと引き取り手がいないんだって」
言い訳をするように言うナギ。シャワーを浴びた後なのか、毛先が濡れている。
視線は落ち着きなく、猫を見たり明後日の方を見たりして、俺と目が合わない。
「飼えると思っているのか?」
「無理だよな……」
珍しく悲しそうな表情を浮かべるナギ。
「ニャー」とナギの腕の中で甘える猫に、少しの嫉妬心を感じる。
「どうして引き取った?」
「黒猫はなかなか飼ってもらえないって……」
このまま引き取り手が見つからないと、とても苦しい事になる。ナギは言葉を濁しながら言った。
「ミネルバの梟では無理……?」
こーゆー時だけ、上目遣いするんだよな。
可愛いな……と思った事がバレないよう、ナギに抱えられている猫を撫でた。ら、シャー!!と威嚇された。何故。
「ルカ、シャンプー変えただろ」
「……あぁ」
少し間があったのは「何故このタイミングで…?」と思ったからだ。昨日、俺の部屋で見たから知っているだろうに。
ナギは猫の頭を撫でながら答えた。
「猫は柑橘系の匂いが好きじゃないんだよ」
そう言うナギの腕に、自身の頭を擦り付けようとする猫。すかさず俺は猫の首の皮を掴んで、ナギから取り上げた。
その行為がマーキングだと、流石の俺でも知っている。
「お前には随分、懐いているんだな」
「ルカが嫌われているのと反対の理由だよ」
そう言って、ナギは袖を捲った。腕には湿布が貼られている。
おそらく訓練中に打撲か何かあり、貼ったのだろう。
湿布特有の匂いがした。
「私は今し方、シャワーを浴びてきたし。個体差によるんだけど、またたびを好む猫はメンソール系の匂いがする物にも反応する」
湿布や痒み止めにはハッカやキャットミントが含まれている。またキャットミントには、またたびにも含まれているネペタラクトンと言う成分が含まれており、それを嗅ぎ取っているのではないかと言われている。
「嫌がる子もいるから、なんとも言えないんだけどな」
そう言って、俺から奪われた猫をもう一度抱きしめようと手を伸ばした。が、俺はヒョイッとさらに上に持ち上げる。
ナギは一瞬悲しそうな顔をするが、次の瞬間には非難する眼差しを向けてきた。
しかし俺の方が、今回は上手だ。
「ミネルバの梟で誰か飼えないか、聞いといてやる」
「!!」
一瞬驚き、次には破顔する。ナギは「ありがとう」と言うと、抱きついてきた。髪からほのかに石鹸の香りがする。
本当、こーゆー時だけ、こう言う事をするんだよな…。現金なやつ、と思うのだが、嫌ではない。
その後、無事に引き取り手が見つかるのだが
「もう面倒は見ない!!」
と、たった数日世話をしたルカが吠えた。
理由はナギが猫にぞっこんで、全く相手にしてくれなかった為だと、知っているのは一部の人間だけだった。
明日から、また本編に戻ります。