交錯編-そこまでは知らん
話し終えたフルメンは、机に置いてあった紅茶を一口飲んだ。
俺は顔面蒼白で、なんと言えばいいのか分からず立ち尽くす。
「ナギは…俺の代わりに殺されかけたのか…」
「殺されかけた、と言うのは語弊があるなーーーアテナ様が約束したのは"復讐している期間"であって、傷を治してはいない」
「!!」
俺は目を見開いて顔を上げた。まさか、と呟く。
「復讐を終えた瞬間…あいつは死ぬのか?」
「ナギ自身がそう言っていたーーーこれは延命であって治っている訳ではない、と」
「ーーーっ」
フルメンの言葉に、俺は拳を握り締めた。そして意を決して尋ねる。
「…俺への復讐が完了しなければ、あいつは死なないのか」
「そこまでは知らん」
残念そうに首を振るフルメン。
これ以上は何も知らないらしいーーー俺は無言で背を向け、ドアへと歩き出した。
「どうする気だ」
ドアノブに手をかけると同時にフルメンが問いかける。俺は振り返らず、ギュッとドアノブを握りしめて立ち止まると、
「ナギを探すーーー全てはその後だ」
そう言い残し、部屋を出て行ったのだった。
部屋に一人残されたフルメンは呟く。
「全くルカのやつ…倒錯的だな」
生きて欲しいと彼女の生を望むなら、彼女に復讐をさせないーーー彼女から離れ続けるべきだと分かっているのに。
それでも、会いたいと願う気持ちは抑えられないのだ。
哀愁に満ちた面持ちでフルメンはカップを置くと、机の電話を取った。そして迷う事なく、ある所へとかける。
相手は2コールで出たのだった。
「ルカには粗方話したぞ、ゲフリーレン」
詰めが甘いな、とルカは思う。
自分と話したすぐ後に関係者へ連絡をするのも、そして相手の名前を言ってしまうのもマイナスだ。
去るふりをしたルカはそっと扉に背中を預け、聞き耳を立てていた。部屋からは断片的だが、幾つかの単語が聴き取れる。
「次は氷雪の国、ゲフリーレンか」
そう呟くと、ルカは本当にその場から立ち去った。
気配が消えるのを感じたフルメンは、内心で言う。
ルカだけではない。フルメン達も伊達にーーールカよりもナギとの付き合いは長いのだ。
「考えが甘いぞ、ルカ」
ーーーこれが誘導だと、お前は気付けるか。
次回は小噺です。