交錯編-この子を助けたい?
状況をひと目見て理解したのか、女神は面白そうに微笑を浮かべる。
「この子を助けたい?」
「え…?」
急な問い掛けに、ネージェさんの反応が遅れた。女神はーーー影のあるーーー微笑みを浮かべて優しくもう一度問う。
「この死にかけの子供を助けて欲しい?」
「た、助けていただけるのですか!!」
パッと顔を上げるネージェさん。私は嫌な予感がして口を開こうとするがーーー声が出ない。
既にそんな力もないのか。
「えぇ、貴女が死ねばね」
「え?」
それは一瞬だった。ネージェさんの体から血が流れ出す。苦しそうに胸を押さえると、ネージェさんは顔面を青くしたのだった。
「うそ…」
その反応で、私は察する。服のせいで分からないが、おそらくそこには穴が空いているのだろう。
女神は笑い声を上げる。
「さぁ、助かりたいならコレを飲みなさい。けど、一人分しかないわよ」
そう言ってポンッと宙から綺麗な小瓶が現れる。女神は見せびらかす様に、私たちの前でそれを手に取った。
「貴女に選ばせてあげる。その子を助けたい?ーーーそれとも助かりたい?」
「死にたくないっ」
そう言って、一心不乱にネージェさんは手を伸ばす。小瓶を奪うように受け取ると、私に目を向けて
「ごめんなさいーーー私にはソルがいるの」
そう言って、小瓶の中身を飲み干した。ネージュさんの身体から淡い光を発し、私は虚な眼で、その光景を眺める。
飲み終えたネージェさんは、再び私に謝罪の言葉を繰り返したのだった。
「ごめんなさい、息子を置いていけないの。あの子の成長を見守っていきたいの、ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと、まるで呪文の様に唱える。
その様子に、言葉に私はーーー怒りを覚えた。
「何故、私が死ななきゃいけないの」
「息子を生きる理由にするのなら」
「私にだって、未来があったのに」
声には出していない筈だった。しかし伝わったのか、女神は底意地の悪そうな笑みを私に向けた。
「全てに復讐するのなら、助けてあげる」
「!!」
その言葉に、私だけでなくネージュさんも反応した。ネージュさんの表情が一瞬だけ変わる。
妖艶な笑みを浮かべ、女神は私に言った。
「全てに復讐するのなら、助けてあげる」
退屈していた女神は、新しい暇潰しを見つけ嬉しそうに顔を歪ませた。
私は戸惑いながらも意を決して、その手を取った。
次の瞬間、ネージュが雄叫びを上げる。
「させないわっ!貴女は此処で死ぬのよっ」
そう叫んだ瞬間、ネージュの治った傷口から血が噴き出した。
女神は嘲笑を浮かべる。
「面白いわね。さっきまで助けようとしていた存在を、今度は殺そうとするなんて」
人は、自分に被害が及ぶと思えばすぐに手の平を返す。なんて矮小な生き物か、と言わんばかりの表情を女神は浮かべた。
そして微笑を私に向ける。
「さぁ、傷を癒してあげる」
そして私の胸に光が集まってきた。その光はネージュさんから発された光と酷似しており、失われた血量もゆっくりと戻ってくる。
女神は「さぁ、行きましょうか」と私に言った。
その笑みに私は頷く。そして
「まずはアルカナから」
と。