交錯編-育てた子供をだと!?
ナギはーーー当時は別の名で呼ばれていたらしいが、ここでは敢えてナギとしようーーーアルカナの購入記録を見るに、1歳頃にアルカナに売り渡されたらしい。
その後、アルカナで魔力の器を植え付けられ、定着するまで1年。3歳に上がる前に、深奥に放り出された…筈。
「そしてネージェと…サルトゥスがナギを保護した」
「父さん!?」
ここで思いもよらない人物の名が出てきて、俺は声を上げた。驚愕する俺にフルメンは追い討ちをかける。
「ネージェはお前の母親だ」
「!!」
つまり、俺の両親は幼いナギを保護したと言う事かーーー表向きは。
なかなか読みが鋭いな、とフルメンは皮肉を言う。
「風の国…アイの出身地、天候の村にもあるように深奥の村にも忌むべき風習が残っている」
それが、
「村長ーーー村の統治者についてだ」
忌々しくも深奥の長は世襲制だった。そして次期村長はとある試験を受ける。
1つ目は、結婚をする事。これは血脈を確保する為であり、婚約でも認められる。
2つ目は、子供を教育する事。これは次代を育てる事に意識を向けさせる為であり、短絡的な統治ではなく長期的な政治を行える様に、と言う意味を込めて設けられている。
そして最後ーーー育てた子供を切り捨てる事。
「育てた子供をだと!?」
非難する俺の言葉にフルメンは目を伏せた。
「非道な決断を出来るか試す為だ。それに教育する子供と切り捨てる子は別に我が子じゃなくてもいい。実子と養子を育て、養子を捨てても構わない」
「……」
口を噤む俺にフルメンは話を続ける。
「そして大抵のルールに例外や特記事項があるように、この風習にもソレがあったーーー次期村長の子供が双子の場合だ」
「……」
「年子は構わない。先に生まれた方を、次代として定めて仕舞えばいい。しかし双子の場合、先に生まれ出ただけ決めてしまうのはおかしい」
フルメンは静かな怒りを拳で握り潰した。
「また実際に何度か、捨てられた方の子供が後に復讐しに来たりーーー片割れを殺して取って代わろうとしたりーーーと事件が続いた事もあり、あるルールが設けられた」
「……」
嫌な予感がして、俺の頬に一筋の汗がつたう。
フルメンは俺に何とも言えない、哀れみに近い眼差しを向けた。
「次期村長をどちらかにすると決めた時、もう片方を殺す、と言うルールが追加されたのだ」
フルメンは視線を外へと向ける。
「3つ目のルールだが、切り捨てるとは殺すのではなく追放でも構わなかった。それこそ100年程前からは事前に保護してくれる人物や団体を見つけておき、追放する日時を示し合わせて、と言うやり方をとっていた」
「なら!」
「それは双子には適用しない」
バッサリと斬り捨てられる。フルメンは淡々と言葉を続けた。