交錯編-これのタイトルは何にしようかしら
アテナは艶笑を浮かべる。
今、アテナは不思議な空間にいた。
地面はなく、暗い空間ーーーまるで宇宙にいるようだが、周囲には星ではなく淡い光を発する球体がいくつも漂う様に浮いている。
その内の一つに近付き、アテナは面白そうに中を覗いたのだった。
「これのタイトルは何にしようかしら」
と言いつつ、内心では既に決まっていたりする。
だが、
「まだ未完の作品に、タイトルを付けるべきではないわね」
だって、まだ結末が分かっていないんだもの。
アテナはふふっと笑い、そしてーーーとても珍しい表情を浮かべた。
慈しむような微笑みを浮かべたのである。
アテナはその球体を優しく包む様に腕を翳した。
触れてはいけない。それは干渉する事になるから。
「“エアリエル”の物語は終わったわ」
アテナは目を閉じて呟く。
復讐、風の妖精、船、嵐、王位奪還ーーーあの物語を真似るのは此処までなのか。
「これは喜劇と悲劇、どちらになるのかしらね?」
物語はまだ終わらない。
次は凪の物語。
凪ーーーそれは、風が止んでいる状態の事。
次は羽をもがれた妖精の物語。
「紫の様子がおかしいだと?」
部下から上げられた報告に、俺は「どんな風に?」と首を傾げた。
「能力の数値が下がっていっているんです」
と言って、提出された能力検査の結果に目をやった。これは半年に一度行っている定期検診であり、確かにガクンッと能力値が下がっている。
スランプと言った物ではない様だ。
俺が唸っていると、丁度電話がかかってきた。相手はアイツである。
『もう一度、能力の特定検査から行ってみたら?』
そしてソイツは、まるで聴いていたかの様に言ったのだ。
俺は「監視カメラでもあるのか?」と頭を抱えた。…まぁ、こいつに仕掛けられていても疚しい事なんてしていないから問題はないのだが。
俺の心を読み取った様に、ソイツは笑いながら言った。
『人工能力者でたまにいるんだよ、幼少期に能力が変わる奴がね』
そして次の瞬間、声色がーーー背筋が凍る様に冷たくなったのだった。
『紫の生活環境も見直せ。十中八九、精神的または肉体的に問題が起こっている』
じゃなきゃ、いくら人工的に造られた能力であろうと能力が変わるなんてあり得ないのだから。
ソイツはそう言うと『よろしくね!』と言って俺の声を無視して電話を切る。
俺は悪態を吐きつつ、受話器を戻した。
これはソイツが繁栄の世界から帰ってくる、1ヶ月前の事だった。
次回は小噺です。