交錯編-それとこれとは別の話ですわ
クーデターによりパンタシアが敗れたと言う知らせは、数日後には繁栄の世界にまで拡がっていた。
そして、現在はファータ王家が火炎や氷雪の国ーーーアルカナからの援助を受け、復興に臨んでいたのだった。
「と言っても、殆どアルカナが統治しているようなものですけどね」
と、シルフィードは皮肉を言った。向かいに座る鵠沼総帥は苦笑いを浮かべる。
「国が安定するまでは仕方ないでしょう…。何せパンタシアの人材育成は発展途上国並み。まずは体制を整える事が先決です」
鵠沼総帥の言葉にシルフィードは目を伏せ、頷いた。そう、分かっているのだ。
元パンタシア国民の識字率は低い。
それはアントーニオ達が内乱を起こさせないようにする為ーーー知恵をつけさせないようにする為に、一部の人間にしか教育を受ける権利を与えなかったのである。
シルフィードは溜息を吐きながら、紅茶を一口飲んだ。そして再度溜息を吐く。
沈んだ虚な眼差しを鵠沼ーーーではなくその背後に控える人物に向けた。
「一体、エアリエルは何処に行ったのかしら」
そう聞かれても、私が知るわけないじゃないーーーと、風見は内心で思った。
不機嫌さを抑えながら、私は入手している情報を述べる。
「ナギーーー失礼、エアリエル様ですが数日前に火炎の軍を辞め、その後嘗ての部下であるルカといた所を最後に足取りは掴めていません」
「ルカさんは現在どちらに…?」
「…ミネルバの梟本部にはいるみたいです」
そう言って、私は隣に視線をやった。日向は昨日からずっと難しい顔をしている。そして私の視線に気付いたのか、今まで閉じていた口をようやく開いた。
「今回の件ーーーファータの復興と、アルカナの受け入れについて発案者及び責任者であるナギからは、事前に計画を聞いています。不手際はあるかもしれませんが、ご心配には及びません」
「…それとこれとは別の話ですわ」
ギロリとシルフィードは日向を睨んだ。
日向は何も言えなくなり、口をギュッと閉じる。鵠沼総帥はそんな姿を心配そうに見つめた。
「ナギ…一体何処にいるんだ」
それはこの場にいる全員の心境だった。