交錯編-あぁ、劇薬の事…
俺の問いに、ナギは「あぁ、劇薬の事…」と遠い目をした。
「アイにご執心のあいつに手伝わせたんだよ」
「ヒナタの事か!?上位存在の手をよく借りれたなぁ」
俺の言葉に、ナギはフッと笑う。
「まぁ、村が無くなるよりはマシだと判断したみたいだな」
「…村?」
ナギの不穏な言葉に俺は寒気がする。俺は恐る恐る尋ねたのだった。
「まさか、天候の村を潰すって脅したのか?」
「そこまでは言ってないよ。ただ、風の国の上層部に、ある情報を漏らしちゃうぞ、って言っただけ」
「ある情報って……」
俺はなんとなく察して、顔を引き攣らせた。
そう、今回各国を引っ掻き回した例の物。
『昔からある問題提起なんだが、母体にいる間、もっと言うと肉体が作られている最中からドゥンケルシュタールやリヒトシュタールと言った“魔力に影響を与えるレアメタル”が側にあった場合、その影響を受けるのではないか?と言うーーー』
パンタシアでは、ドゥンケルシュタールが埋まっていた為に、能力者が少なかった。
逆にーーー
『風の国は元々高位の風使いしか出入り出来なかった』
『風神の姫君ーーー歴代最強の風使い』
「天候の村は山中にあるーーーあそこにはリヒトシュタールが埋まっているのか…」
遠い昔からリヒトシュタールの影響を受け、遂に最強の風使いを創り出した。これは偶然か?それともーーー
「上位存在による実験って可能性もあるな」
ナギは俺の思考を読み取ったのか、考えを口にした。その眼には影がかかっている。
俺は目を僅かに見開いた。
「ヒナタが仕組んだって言うのか!?」
「いや、ヒナタじゃないーーーもっと古い上位存在だろうな」
「……」
ナギの言葉に、俺は押し黙る。チラリとナギの横顔を盗み見た。そしてーーー心の奥でずっと思っていた事を口に出したのだった。
「今回、随分お前らしくないな」
「らしくない?」
首を傾げるナギに、俺は頷いた。
「脅迫紛いな事や人を巻き込む事は今までも普通にあったが、今回は個人を指名している所が、お前らしくない。特にアイにはヒナタとは別の意味で、執着している様に見えたぞ」
「……」
ナギから一気に作り笑顔が削がれた。それでも尚、俺は言葉を続ける。
「確かにアントーニオは色覚異常で、それを利用しようと計画したのは構わない。だが、他にもやりようはあった筈だ」
先程も言った様に、アントーニオの色覚異常が軽度だった場合、途中で失敗する可能性は充分あったのだ。なのにそれを実行したのはーーー
「アイを巻き込みたかったから、俺にはそう見えたぞ」
「……」
ナギは無言で俺を見つめる。その表情は能力を用いずとも、俺を肯定していた。
ナギは一度目を伏せ、そして意を決した眼差しを俺に向ける。そして
「あぁ、そうだよ。あいつらは“巻き込まれるべき”人物だったからな」