交錯編-錯覚って事か?
もうそろそろ分類を「ミステリー」から「ファンタジー」に変えようかな…と思います。
前ページと場面が変わります。
俺は夕陽を背にし、その隣にいるナギは「綺麗」と海を眺めている。ナギの赤い髪は潮風で靡いた。
「アントーニオは何故、お前の髪色を赤だの黒だの間違えたんだ?」
俺はずっと聞きたかった疑問をついに口にした。ナギは得意げな笑みを浮かべ、上目遣いに俺を見る。ニヤリといつもの意地の悪そうな表情だ。
「色覚異常って知ってる?」
「色覚異常?ーーー確か色の区別がつかない症状の事だろう?」
俺の答えにナギは頷く。
「物を正常に見る為には視力、視野、色覚の三つの機能が必要で、色覚異常はこの三つの機能のうち、色覚に異常がある状態だ。また先天色覚異常と後天色覚異常があり、原因が遺伝的、生まれつき異常があるものを先天色覚異常、他の目の病気の一つの症状として色覚に異常が出るものを後天色覚異常と言う」
ナギは「食生活や加齢とかの原因でなったりな」と付け加えた。
「色覚の異常には1型色覚、2型色覚、3型色覚と種類があり、見え方が異なる」
「見え方?」
ナギは頷く。
「1型は主に赤、2型は緑にそれぞれ敏感な視細胞の機能に異常がある。そして今回、アントーニオはーーー」
「1型色覚、赤色に対して問題があったのか」
俺の言葉にナギは「そう」と同意した。更に補足説明が追加される。
「特に区別がつきにくい色の組み合わせは、茶と緑、赤と黒、橙と黄緑、ピンクと灰色・白などがあるんだ」
「けど、それならシルフィードの髪色が黒に見えるようになった頃から気づくんじゃ…?」
「目は写しているだけで、見ているのは頭なんだよ、ルカ」
私の言葉に、珍しく“?”がルカの頭上に現れる。
「錯覚って事か?」
「近いかな。左右の眼から入ってきた視覚情報を基に、脳で画像処理を行う。その処理方法には当然、持っている知識から今までの経験も使われる」
ナギは眺めていた景色に背を向け、俺と同じように手摺りに寄りかかった。
「今回の場合、
1、瞳と髪の色は同じ
2、風神の姫君アイの色は赤
3、シルフィードの色は黒
4、エアリエルとシルフィードは双子
この4つの情報の所為で勝手に脳内で画像処理が行われ、赤が黒に見えたりしたんだ」
「アイだと名乗れば勝手に脳内でアイ=赤だと判断し、シルフィードの妹と言えば、=姉と同じ黒だと思い込み…って事か。よくうまく行ったな…」
俺の言葉にナギは苦笑いを浮かべた。「私もそう思う」とはにかむ。
「案内した別室の赤いソファーに黒字で“バカ”って書いてみたり、救命艇の中を緑に塗ってみたりとか色々仕込んで、反応しないか確証を持ってからやったとは言え、危ない橋ではあったよなぁ」
「もし色覚異常が軽度だった場合はどうしたんだ?」
呆れた様に言う俺に、ナギはあっけらかんと言う。
「そしたら強硬手段に出ていたかな?」
「……」
俺は「そうならなくて良かった」と呟く。
ナギの強硬手段とは、恐らくあの魔法の事だ。アレがバレるのは不味い。
俺は一度咳払いすると、別の疑問を投げ掛けた。
「あの嵐は?元々天候が悪かったとは言え、あんな局所的な嵐は流石に自然現象ではないだろう」
あれは流石に魔法だろう。だが、誰が起こしたのか?