交錯編-我々のメリットは?
「大地の国は表面上はまだ友好関係を取っている。事前に『パンタシアのレジスタンスが潜んでいる可能性がある。万が一の場合に備え、軍を近場に控えておきたい』と言っておけば、大地の国としては了承するはずだ」
私の言葉にヒュエトスは呆れ顔をする。
「そんな簡単に行くと思うのか?しかも菴羅は大地の国から遠い分、警備が薄い。そこに敵国の軍を駐屯させるなどーーー」
「手が薄いって事は、大地の国としても重要視していない場所って事だろう」
言葉を遮って、私は話を続けた。
「寧ろ好機と思う筈だ。近々、同盟を反故すると言う情報もあるし。敵国の戦力が自ら遠方に行ってくれるんだぞ?菴羅を切り捨てて、火炎の国が手に入る方が実入りは大きい」
「……」
私の言い分に、フルメンは口を噤む。憎々しげに私を見た。
「つまり敢えて攻める隙を作れ、と」
「実際に攻め入られた場合、お前の責任になるぞ。どうするつもりだ?」
鵠沼の指摘に私は「何の為に異世界に行ってたと思っている」と鼻で笑った。
「風の国から応援を呼ぶ。風神の姫君アイも含めてな」
風の国は、リヒトシュタールが国外へ搬出されると言う危機から救った火炎の国ーーーひいてはナギに恩義がある。更に正式に同盟も結んでいる為、一日ばかし国防に協力するのを拒むとは思えない。
「それに技術も進歩して、昔ほど異世界転移にエネルギーが掛からなくなったしな」
嘗ては異世界に飛ぶのに膨大なエネルギーが必要だった。しかし日々の研究で、3年前と比べておよそ半分まで軽減が可能になったのである。
パンタシアと大地の国はまだ書面でも締結しか行っていないーーーつまりドゥンケルシュタールはまだ大地の国に輸出されていないのだ。
私はパンッと柏手を打った。全員が私に注目する。
ーーーさぁ、此処が正念場だ。
私は意を決すると、言ったのだった。
「パンタシアには悪いけど、貿易回復早々にまた自粛して貰おうと思うーーーだけでなく、私はパンタシアを滅ぼそうと思う」
私の言葉に、全員が息を呑んだ。フルメンは「やはり」と言う顔をする。
「パンタシア現統治者アントーニオを退けたら、ファータ王家の復興支援及び自治を支持して欲しい」
「ナギ、それはーーー」
「我々のメリットは?」
ゲフリーレンがフルメンの言葉を遮って、ピシャリと問うた。真剣な眼差しを向けてくる。
ーーーお前の事情は知っている
ーーーだが情で決めるなどしない
私は拳を握り締めた。大丈夫、甘えなどしない。
幼い頃から、私たちは常に対等だった。若いからと軽視しない、故に甘やかしもしない。
私はゆっくりと深呼吸して言ったのだった。