同盟編⭐︎暇なのでちょっと儲けようかと
通り過ぎていく風景を観ながら、私は欠伸をした。赤い髪が、窓から入ってくる微風で靡く。
現在私は電車に乗っており、地方から火炎の国の中央都市、炎威の街に戻っているところである。特急の為、停車駅は少ないのだが、それでも長い時間座りっぱなしは退屈だった。
「よっしゃー!俺の勝ちっ!」
と、乗客が少ない静かな車内で声が上がる。なんだ?と思って目を向けると、隣のボックス席で男2人がトランプをしていた。私はニヤリと艶笑を浮かべる。いい暇潰しを思いついた。
「ねぇ、私とトランプで賭け事をしない?」
そう言って私は席を立ち上がる。
「ルールは簡単。トランプのハート、ダイヤ、クラブ、スペード各一枚のみを使うの。
その4枚から2枚選んで、ハートとダイヤ、クラブとスペードの様に色が揃ったら貴方達の勝ち。赤と黒のペアだったら私の勝ち。ちなみに9回勝負」
掛け金は電車料金と同額なんてどう?と、挑発的な笑みを浮かべる私に、2人の男は顔を見合わせた。目で「どうする?」と問いかけ合っている様だ。
そして一人が口を開いた。
「カードを引くのはどっちだ?あんたか?」
「シャッフルは私、引くのは貴方達で。
ちなみにカードの出目は[赤、赤][赤、黒][黒、赤][黒、黒]で、お互いに勝率は五分五分だ」
私の言葉に、もう一人がすぐ様「ならいいぞ」と言った。そしてデッキから4枚抜き、ちゃんと4種類と分かる様、柄を見せる。そして私に渡した。
「では2枚選んで下さい」
シャッフルして、見えない様に並べる。男たちはそれぞれが一枚ずつ選び、カードをめくった。
結果は、クラブとスペード。男たちのポイントだ。男たちはニンマリと意地の悪そうな笑みを私に向けたのだった。
それから残り8回同様な事を繰り返し、結果は私の勝ちとなる。そして諦めきれない男たちは「もう一回だ!」と何度も私に挑み、
「お前、いかさましただろ!だってこっちの勝率は2/3のはずだろ!?」
負けた男たちがわめいてる。私は首をわざとらしく傾げた。
「勝率が2/3ってどう言う事?」
「お前がさっき、カードの出目は[赤、赤][赤、黒][黒、赤][黒、黒]だって言っただろ。
だが[赤、黒][黒、赤]は同じ事だから、実際の出目は[赤、赤][黒、赤][黒、黒]で、俺たちの勝率は2/3のはずだ!!」
キッと睨んでくる相手に、私は「そーなんだ〜」と他人事の様に返す。ニコッと作り笑顔とともに、掌を上に向け
「けど、結果が全て。2人とも、2万ウェザー払ってね」(※100ウェザーで菓子パン1つ買えるくらい)
と催促した。「くそっ!」と嘆く2人に、私は心の中でバーカと呟く。
確率の計算を間違えてる、と。
ようやく目的の駅に到着。私の懐は臨時収入により暖まった。今日の晩ご飯は少し奮発しよう。上機嫌な私を、2人は恨めしそうに見ながら去っていく。
「ナギ」
さてと、行くかっと伸びをした時、背後から声をかけられる。聞き覚えのある声に振り向くと、思った通りの人物がいた。
「ルカ、なんだか久しぶりだな」
「二日ぶりで、全くそんな風には思わないが」
呆れた様に言うこいつは、ルカ。溜息をつきながらも、車のキーを見せる。
「あっちに車を停めてある。このまま向かうだろ」
サンキュー!と飛び付くと、ルカは嫌がりながらも照れていた。
自動運転で目的地に向かっている時、私はルカに聞いてみた。
「ねぇ、正しい確率を知っていたのは誰だと思う?」
そう、それは先程の賭けについでだ。ルカは「"知っている"ならお前だろ」と可愛げなく言った。流石に分かったか。
ちなみに「幾ら勝った?」と聞かれて「2万」と舌を出して答える。
「馬鹿な奴等だ。カードを表にしてやってみれば、一発で分かる」
4枚の中から2枚選ぶ。
一枚目にもしハートを引いた場合、残りはダイヤ、クラブ、スペード。つまり赤1枚、黒2枚。男たちが勝つ確率は1/3。逆に私の勝率は2/3。
9回勝負でやれば、だいたい勝てる計算だ。
「暇なので、ちょっと儲けようかと」
テヘペロとやったら、ルカが汚物を見る様な目をして来た。が、気にしないでおこう。