交錯編-気付かなかった?
「どう言うことだ…」
目の色を変えて、アントーニオは私たちを見た。エアリエルと顔を見合わせ、私達はしてやったり、と言わんばかりの笑みを浮かべる。
「統治者がいない間に一斉蜂起しただけよ」
と、エアリエルはあっけらかんと宣った。アントーニオはキッと睨む。
「ふざけるな、各所に信頼のおける実力者達が治めているんだぞ。あいつらがそんな簡単にーーー」
「そうね、けど事前に半分くらい戦力を削いだから大丈夫よ」
エアリエルは面白そうにふふっと笑う。
「気付かなかった?祝典に参加したパンタシア側の人間全員、此方に捕まっているわよ」
「な、んだ、と…」
「救命ボートに乗り込んだまま、此方で捕らえたの」
ネタバラシをするエアリエルは楽しそうだ。私は当時の事を思い出す。
あの時捕らえたと言うが、人数はそう変わらなかった筈。周囲に救援に来た火炎軍がいたとしても、パンタシアの人間全員を拘束したのならすぐに分かりそうだが。それこそ、救命ボートの数は、実際に乗客が乗り込んだ数と同じだった筈だ。
私の疑問が伝わったのか、エアリエルは得意げに解説をしたのだった。
「乗客が乗り込んだ反対側の救命ボートに、事前にレジスタンスが乗り込んでいたの」
法律上、客船には左右どちらから沈没してもいい様に、船の両面に救命ボートが設置されている。また乗員乗客人数の125%が乗り込めるようになっており、しかも今回はパンタシアが見栄を張った為に、十分な救命ボートがあったのだった。
「しかも救命ボートの殆どが救助艇だったお陰で、誰が入っているのか外から分からなかったしね」
とウインクするエアリエル。
私はトリックが分かって頷いた。
「つまり、海上で入れ替わったって事ね」
流れとしてはこうだ。
1、沈没すると警報を鳴らし、乗客全員を救命ボートに誘導する。
2、その反対の救命ボートに事前にレジスタンスが乗り込み、共に海へと出る。
3、海上で救命ボートの集団に紛れこむ。
4、菴羅で待ち構えていた仲間がパンタシア側が乗り込んだ救命ボートとレジスタンスが乗り込んだ救命ボートをそれぞれ仕分ける。
「実はレジスタンスに囲まれていたって事ね」
「そう、ただあの時に問題を起こすと火炎軍を敵に回す事になっちゃうから、ファディーだけ行動を起こす事になったの」
火炎の救助もとい保護下で戦闘行為を行えば、一応パンタシアと友好関係である火炎軍はレジスタンスの鎮圧を行わなければならなくなる。流石にそれは不味い。
「当時の目的はパンタシアの戦力を削ぐ事、そしてアントーニオの発言権を失くす事」
「なんだと?」
エアリエルの言葉にアントーニオは眉を顰めた。エアリエルはクスッと小馬鹿にした様に笑う。
「だってそうでしょう?黒だの赤だの、正常な判断が出来てないじゃない。しかも先程、風の国を敵に回したし」
エアリエルはニッコリと作り笑いを浮かべて宣った。
「此方が勝利すれば、氷雪や火炎の国は私達ファータ王家を支持すると宣言したわよ」
それはナギが行った、根回しの結果だった。