交錯編-お呼びかしら?
ゲフリーレンの発言にフルメンは「あぁ、そうだ」と髭をなぞりながら賛同した。
「ちょうど貴殿の後ろにいる方とそっくりの、黒い女性でしたよ。あの女性とアイを見間違えるのは随分と無理がありますね」
「……」
アントーニオは愕然とした表情を浮かべる。一体、何がどうなっている?黒だと?あいつは確かに赤だった。赤眼赤髪の女だった。
「嘘だっ!火炎も氷雪も此方を嵌めようと、口裏を合わせているのだろうっ!」
アントーニオの指摘に、フルメンとゲフリーレンだけでなくその場にいたーーー殆どの者が呆れて表情で首を横に振った。そして、
「誰が嘘を吐いている、と言ったらキリがない。此処は本人に言ってもらった方がいいだろうーーー宣誓で」
と言う、フルメンの言葉にアントーニオだけが首を傾げた。そしてーーー部屋の扉がゆっくりと開かれる。
「お呼びかしら?」
そう言って入ってきた女の姿に、アントーニオは目を見開いた。
女は不敵な笑みを浮かべる。
「さぁ、返して貰いにきたわよ」
誰にも聞こえないくらいの声で、そっと呟いたのだった。
私はチラリとフルメン中将を見た。此処までは事前に聞いていた通りである。
パンタシアの統治者アントーニオが指摘した通りーーーフルメンとゲフリーレンは口裏を合わせている。
口裏を、と言うより事実を誇大表現したりしているだけだが。
例えば『あの女性とアイを見間違えるのは随分と無理がありますね』と言う発言。
ナギとアイの容姿で異なるのは瞳の色だけだ。背丈や髪の長さも似ており、後ろ姿だけでは判断出来る者の方が少ないだろう。
私の隣にいる男、ルカは別として。
『レイ、お前この後どうなるか聞いてるか?』
『何も聞いていないわ。ナギが登場して来る、とは聞いていたけど』
筆談で、お互いに意思疎通を図る。私はゆっくりと入室するナギの姿を心配そうに見た。
アバヤ姿で髪を隠しているが、見せろと言われてしまったらどうする気なのだろうか…。
髪の色を指摘されれば終わりだろうに。
『一体、何をするつもりかしら…?』
フルメンによる招喚と言う形で入室した私は、アントーニオに底意地の悪そうな笑みを向けた。
「お久しぶりですね、アントーニオ様」
「お前…まさか、あの時の」
初めて会った時の格好に、アントーニオは思い出したのかわなわなと震えた。そしてキッと私を睨む。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ。流石にお前とアイを見間違える筈があるかっ!」
「では、私でないと?」
クスクスッと笑う私にアントーニオは苛立ち、拳を振り上げた。その幼稚な威嚇行為に、私はスッと目を細める。そして
「私の本名はエアリエル」
宣誓された私の言葉に、アントーニオは固まった。私はまっすぐにアントーニオの後ろーーー愛妾を射抜くように見つめる。愛妾も覚悟を決めていたかのような表情で、まっすぐに私を見返した。
私は声を張り上げる。
「貴方の愛妾シルフィードの双子の妹。嘗てパンタシアが反乱軍への見せしめに、アルカナに売り飛ばした王女、それが私よ」
そして私はアバヤの頭の布を取った。演技がかった口調で宣戦する。
「私が貴方に手をあげた者。さぁ、貴方には私が何色に見えるかしら?」
風の妖精は、不敵な笑みを浮かべるのだった。
「裏-風塵の姫君」の最後ら辺に書いてある「とある事」とは、王家の人物(=エアリエル)をアルカナに売った事です。




