交錯編-そう言う様に仕向けたのはお前だろう
ーーー随分と上から目線じゃない?ナギ
そうアテナ様に言われた気がしたが、私は無視をした。それよりもやらなければならない事が控えている。
「パンタシアが風の国へ謝罪を要求してきた」
「へぇ」
私はフルメンの執務室にいた。フルメンは目の前に立つ私に鋭い眼差しを向けてくるが、私はどこ吹く風と言わんばかりの顔をする。
「何て主張してきたんだ?まさか風神の姫君アイが攻撃してきたとか?」
「そう言う様に仕向けたのはお前だろう」
フルメンの言葉に、私はハッと鼻で笑った。
「何の為に繁栄の世界と同盟を結びに行ったと思ってる」
私の言葉にフルメンは口を噤む。
私は艶笑を浮かべた。
「さぁ、仕上げに入ろうか」
パンタシアの統治者アントーニオと、フルメン、ゲフリーレンそしてーーー風の国の使者等、関係者が集まっていた。
各人の後ろにはそれぞれ付き人ーーーアントーニオの後ろには愛妾、フルメンの後ろにはレイ達が控えている。
アントーニオは底意地の悪い笑みを浮かべ、風の国に向かって言ったのだった。
「風の国のアイに私は命を狙われた。我が国がまだ地位の低い国だからと言って簡単に済まされる事ではない」
「こちらには身に覚えのない事だ。異議申し立てを行う」
風の国の使者トラモンターナが毅然とした態度で抗議する。
「わざわざ我が国が貴国を狙う理由がない」
「っ!」
冷ややかな眼差しは、パンタシアなど眼中にないと言わんばかりである。
世界会議への参加権を未だに持っていないパンタシアを軽んじている行為であった。だが残念な事にそれは事実であり、この場にいる各国の代表全員がパンタシアを格下と思っているのだった。
アントーニオは拳を握り締め、声を張り上げた。
「しかし、私に危害が加えられた事実は確かだっ!証拠に頬は先日まで腫れ上がり、奥歯は砕け、顎の位置は大きくズレた。私自身への治療費及び精神的苦痛への慰謝料は勿論、風の国への責任は取ってもらうっ!」
多少演技がかった抗議内容に、フルメンは静かに言った。
「確かに、貴殿の身に不幸が降りかかったのは事実だろう」
「っ! 流石、火炎のーーー」
「だがそれが、アイが行った証拠と言うのはおかしい」
フルメンの賛同を得られたと思った矢先、突き飛ばされるアントーニオ。恨めしそうにフルメンを睨みながらフルメンに噛みついたのだった。
「貴方も見ている筈だっ!他にも当時の乗客が目撃している筈っ!」
「はて、何をでしょう?」
わざとらしくスッとボケるフルメンに、アントーニオは我慢出来ず自分の席の机を力強く叩いた。
「アイに殴られた所を、だ!」
「残念ながら、私は貴殿の奥方の悲鳴で駆け付けた身でしてな。その現場は見ていないのですよ」
フルメンがチラリッとゲフリーレンの方に目をやった。視線を感じたゲフリーレンも無言で頷き、そしてゆっくりと口を開いたのだった。
「それに私たちが見たのは、黒だった」
え?と、新たに出てきた情報に、アントーニオは間の抜けた表情を浮かべた。しかしゲフリーレンは無視をして言葉を続けたのだった。
「我々が見たのは、黒い瞳の女だった」