✴︎こんな事、望んでない
村崎は最後の仕上げをしていた。
ナギと日向がこの街に来たのは想定外だったが、これで間もなく自分の計画は終了する。
「あの時のものが、まだ残っていたとは」
「!!」
振り返ると、そこにはナギが立っていた。日向はいない。
村崎は内心で嗤うーーナギだけなら、もし戦闘になったとしてもどうとでもなる。
「有効活用しているだけだ」
「どこがだよ?」
睨むナギの目は、村崎の手元を見ていた。その手には、白い粉がいっぱいに入った袋が握られている。それはかつてアルカナが開発したものだった。
「魔薬ーー能力強制開化剤と言う名の、化学兵器」
アルカナは人工能力者を開発している組織だ。
当然、そんな代物も研究されていた。しかし
「それは能力を得るのと引き換えに、自我が崩壊する。また奇形児が生まれると問題になって、作製が中止された物だ」
何より毒性が強くて、一度に摂取する量を間違えると死に至る。
「あぁ、だから別の使用法で活用しているのさ」
村崎は開き直った様に曰った。
「3年も経っているからな。品質が落ちていないか確認する為に何人かに使用したが、本来の目的はそうじゃない!!」
魔薬をこの街に散布する。すると、
「呼気と共に肺に入るだけじゃない。水路の水に溶けた分は、水路から海へ至り、生物濃縮される。最終的に人の体内へと入っていく」
そしてこの街の人間はその被害に遭う。現在生きている者は自我を失い、胎児やこれから生まれてくる子供達は奇形児として。
村崎は堪らず、堰を切ったように話した。
「アルカナの悲願を叶えさせない!!絶対に!俺を裏切った奴等に、本懐を遂げさせない!」
そう言って、袋の中身を口に当てた。
ナギは「やめろっ!」と声を上げて駆け寄るが、遅かった。持っていた魔薬を飲み干した村崎は、不敵に笑う。
「街の至る所に、散布機を設置した。日付が変わった瞬間に爆発し、魔薬を空気中に撒き散らす」
ナギは時計を見た。24時まで、あと2時間。
村崎の顔色がどんどん酷くなっていく。
「日向の姿が見えないが、紫を追っているのか…?紫を捕まえた所で、設置場所は私しか知らないがな」
わざとらしい高笑いを上げる村崎。勝った、と言うように、満足そうな笑みを浮かべた。
ナギは唇を噛んで俯く。村崎は言葉を続けた。
「託宣のシスターは殺した。そして私ももうすぐ死ぬ!お前達は防げない!!」
託宣のシスターを殺した理由。それは、もし自分の目論見がばれてしまった場合、託宣で散布機を発見・回収されてしまうのを恐れた為だった。
「ーーお前は、アルカナに嫌がらせをしたいが為に、この街の住人を犠牲にするのか」
顔を上げたナギは、皮膚の色が茶色に変色した村崎を見る。怒りを込めた眼差しが、村崎を射抜いた。
気圧された村崎は、後ろに倒れ尻餅を着く。ナギはカツカツと近付き、村崎の胸ぐらを掴んだ。
そして宣言する。
「墓場まで持っていけると思うなよ。死人に口無しと笑うなよ」
そしてある事実を話す。
村崎は「まさか…」と絶望の表情をし、ナギは嘲笑った。
そしてトドメを刺す。
「お前の死は、無駄死にだ」
ナギの言葉に村崎は発狂した。
そして叫声を上げながら絶命した。
息を引き取った村崎の亡骸をそっと地面に置くと、ナギは笑みを消した。
「…こんな事、望んでない」
こんな終わりを望んで、村崎を追い詰めた訳ではない。
誰かが聞いている訳でもないのに、そう宣言しないと気が済まなかった。
次は解説回となります。
最後まで、お付き合いお願い致します(>_<)