交錯編-あの子の分も
「……」
「そうなると、あんたが所属する組織が絞れてくる。もしかしてーーー!?」
「!!」
俺の言葉を遮る様に、船が大きく上下した。海に放り出されないよう、急いで近くの手摺りに掴まる。
「おい、やばいぞ」
「くそっ、もうか」
もう?まるでこうなる事を知っていたかの様な台詞に、俺は問い詰めようとした。しかし揺れはひどくなり、立っているのがやっとである。
「おいっ!何処に行く気だ!?」
俺の言葉を無視して、相手は揺れる地面をもろともせずに何処かへ駆けて行く。
「まさか、転覆とかしないよな…?」
俺には妖精の輪がある。ドゥンケルシュタールさえ近くになければ、脱出するのは簡単だ。
だが、ナギはどうする?
あいつの居場所を把握していない為、助けに行くのは非常に難しい。それにレジスタンスの実力も、さっきの奴レベルが平均だったらナギでは勝ち目がない。
「ナギ…この嵐さえ、お前の計算通りだと思っていいんだよな?」
突然の揺れ。照明はまだ着かない。
普段より高めのヒールを履いていたせいで私は体勢を崩してしまい、床に倒れた。脚に痛みを覚え、足首を見ると腫れていた。挫いてしまったらしい。
「やめて、お願い…」
統治者の事はどうでもいい。だが、私にその被害が及ぶのは御免被る。
「サラ、ヴィーネ、ネーレ…」
望まぬ結婚をさせられた従姉妹達の名を呟いた。彼女達が私達に同情した時の事を思い出す。
「私は、あの子の分もーーー」
そう呟いた時、私の上に影が落ちてきた。私は顔を上げると、同時に目を見開く。
「貴女は…」
息を呑む私に、赤い髪をしたその人物は微笑を浮かべたのだった。