交錯編-そんな目で見られる謂れはないぞ
アイが「ナギは君といると幼くなる」って言った理由です。
俺の疑問に、ナギは「知りたい?」と小首を傾げた。そっと俺の耳元に口を寄せーーー
「内緒」
と言ったので、ナギの両頬を軽くつねる。
「い・い・か・げ・ん・に・しろっ!」
「うぅ…」
「いつもいつも、一人で動きやがって!心配する身にもなれっ」
「う〜」
呻くナギに少し嗜虐心を抱いた時、フルメンから白い目で見られている事に気付いた。近くにいたアイも目を逸らしている。
「……」
居た堪れなくなった俺は、ナギの頬から手を離した。「痛い…」とナギは少し涙目になって俺を恨めしそうに見ながら、頬を摩る。
「そんな目で見られる謂れはないぞ」
「顔の形が変わったら責任取ってもらうからなっ」
「そんな強く抓ってないはずだ」
「私の頬はデリケートなんだよ!」
「肌は切れてないだろう?」
「基準がそれ!?それって強さより、つねり方の問題な気が…」
と、馬鹿馬鹿しいやり取りをする俺達にフルメンは溜息をついたのだった。
私はナギの指示通りにエントランスにいた。現在はルカと別行動である。腕時計を見ると、パーティーまで1時間を切っている。
メインホールの入り口はまだ閉じられていた。
「すみません、あの時計遅れている様ですよ」
中央に置いてあった掛け時計と時間が違っており、私は従業員に声を掛けた。呼び止めた従業員は言いにくそうな表情で答える。
「そちらは電波時計になっているので、お客様の時計のご調子が悪いのかと…」
「えっ!それはすまなかった」
私は急いで謝る。従業員は「それでは失礼します」と、此方の非であるのに礼儀正しく去っていく。
「…それにしても、外が全く見えないな」
客船に乗ったのは初めてだ。事前に船内地図を見たがレストランやシアター、スパにカジノと、娯楽施設が入っている。それらの殆どが窓がなく、外の様子が見えない。
『アイは普通に参加してくれるだけでいいよ』
と、ナギは言った。
『知るべき連中は既に私の姿を知っているから、ルカといれば勝手に勘違いしてくれるし』
『おい、それはどう言う意味だ?』
ナギの言葉に、私はこめかみを押さえながら聞いた。ナギは『そのままの意味だよ』と平然と答える。
『名前を偽る必要はないし、私のフリをする必要もない』
『…そしてパンタシア側でお前の事を知っている奴等は、私をお前と勘違いするのか』
私は溜息を吐く。
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