交錯編-君は真面目だな
俺は客船へと搭乗していた。隣にはナギーーーではなく、アイが立っている。先程テープカットが終わり、現在は各自指定された客室へと案内されている最中だ。
「帯剣出来ないのが、心ともないな」
「そうですね…。先程の事を思い出すと、余計に」
俺はテープカット時に起きた事を思い出す。あの時はまだ帯剣していたが、搭乗時に取られてしまったのだ。お互いの愛用の武器は現在、港で保管されている。
俺はチラリとアイを見た。一対一で話すのは初めてだ。
と言うか俺は何度かアイを見ているが、アイは俺の事を知ったのはつい先日である。
気まずく感じるのは俺だけか?と思った時、アイが微笑を浮かべた。
「私にも砕けた言い方で構わないぞ?」
ナギに似た笑みを浮かべるアイに、俺は困った表情をする。アイはクスッと笑った。
「君は真面目だな」
「あいつが不真面目なだけです」
俺は溜息に似た吐息を吐いた。
「本来なら貴女は客人だ。こんな真似を依頼したなんて知られたら…」
「まぁ…風の国には秘密だな」
アイも苦笑いを浮かべる。ちゃんと己の価値を理解している様だ。
不意にアイがはにかんだ。
「ナギは君といると、少し幼くなるんだな」
「あの時の事は忘れてくれ…」
パンタシアに来る前、フルメンの執務室でのやり取りを思い出したのだろう。俺は恥ずかしくなって、そっぽを向く。
向いた先が丁度窓だったので、外の景色に意識を向けた。先程から雲行きが怪しい。
「ナギは無事に乗れただろうか…?」
急に心配になって、俺は呟いた。
「わざわざアイを身代わりにしてまで、一体何をするつもりなんだ?」
身代わりって言っても、別に私の名前を使えって言ってる訳ではない。
私はひっそりと、そしてこっそりとパンタシアの統治者アントーニオを見ていた。奴は今、正妻と共に自室にいる。
「さて、どうするか」
パンタシアには、個人的にも組織的にも印象が悪い。どう煮こうか焼こうか迷ってしまう。
私はチラリと隣にいる男を見た。そいつは不機嫌そうな表情を浮かべ水面を見ている。
此処に私といるのが不満なのだろう。
私の視線に気付いたのか、そいつはギロリと私を睨んだ。
逆に私は笑みを浮かべる。
「さて、行くか」
復讐劇の始まりだ。