小噺②-3
ナギは休みの前日は大体、俺の部屋に泊まるようになった。
よって俺も休みの日が重なるようにしている。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだが」
「んー?」
俺が朝食を用意している間、ナギはなんとかベッドから出てくるが、それでもソファまでくるとそのまま倒れ込んだ。起きようとする意思はあるのか、伸びをしたりスマホを弄って半寝半起きの状態である。
なので声をかけるとたいていは「んー!」「んー?」「んっ」「んー…」の4種類の返事になる。
俺はうつらうつらとするナギの頭を撫でた。
「まだ眠いなら、寝てていいぞ」
「んー…、起きる…」
ナギの腹もぐうぅぅと返事をする。あ、はい。空腹なんだな?
「今日のご飯は…?」
目を擦りながら問うナギに、俺は微笑を浮かべた。頭を撫でると、ナギは嬉しそうに目を細めたのだった。
舞茸の炊き込みご飯をナギは幸せそうに咀嚼する。
俺はズズッとアサリの味噌汁を飲んだ。
「で、聞きたいことって?」
「ちゃんと聞いてたのか」
当然、とナギは得意げに言う。俺はだし巻き玉子に箸を伸ばしつつ尋ねた。
「前に日向に聞いたんだが、幼少期に虐めてきた連中にトラウマを植え付けたって。何をやったんだ?」
「あぁ、それか…」
胡瓜の浅漬けを食べながら、ナギは微妙な表情を浮かべる。
「ご飯食べながらする話じゃないかな…」
「何をしたんだよ!?」
そりゃ、お前を虐めていた連中なんて酷い目に遭えばいいとは思うけど、と俺はジト目を向ける。
ナギは苦笑いを浮かべ、
「後で教えるよ」
と言ったのだった。
俺が洗って、ナギが拭く。朝食に使用した食器を
片付けながら、俺は聞いた。ナギは「そんなに気になる?」と笑う。
「知識は力なりの体現、て日向に言われてたぞ」
「ある意味、的を射てるな」
ナギは観念したのか、話し始めた。
「覚えているのは、水泳実習に海に行くって言っていた連中に、前もってフォーラーネグレリアの話をしたり」
「脳食いアメーバ…」
「食堂で春雨スープが出る日に、目の前で蟷螂を水に沈める様子を見せたり」
「ハリガネムシ…」
「タイミングを見て、知識を披露していただけだよ」
「恐ろしいな、お前は!!」
俺はツッコミを入れる。ナギはわざとらしく「どこが?」と笑みを浮かべた。
「フォーラーネグレリアに感染した脳の映像を見せつつ、感染した場合、発覚した時にはもう手遅れだから気を付けてねって言っただけだよ」
「そいつら、ちゃんと泳げるのか?」
「後で聞いた話だけど、海どころか宿泊施設にあった大浴場にも入れなかったらしい」
もったいないよなぁ、とナギはにっこりと笑い、
「子供がやるにはエゲツない方法だよ」
と俺は身震いしたのだった。
明日も小噺
12月から新章突入予定です。