小噺②-2
ルカは2杯目を頼む。
「ずっと気になっている事がある」
「なんだよ?」
相変わらず神妙な面持ちのルカは意を決して聞いた。
「あいつらって、なんであんなに仲が良いんだ?」
しかもそれが、対等と言うより、“姉妹”のような関係ーーー主に風見が干渉が多い姉の様な態度を取っている。
日向は「そうだなぁ…」と斜め上を見た。おそらく記憶を探っているのだろう。
「初めはあんなじゃなかった、と言うかお互いに意識してるけど、必要最低限の会話しかしてなかったな」
「必要最低限って、例のグループ課題の時とかって事か?」
ルカは以前聞いた内容を思い出す。日向は頷いた。
「同じ支部内でもそう会わないし、たまに会う課題の時にだいたい『あ、こいつ出来るな』って分かるだろう?」
「確かに…。同レベルの相手を意識すると言うのか、ライバル視してしまうと言うのか…そんな感じか」
「そうそう。で、風見としては好敵手より友達が欲しかったわけ。友達って言うよりも、慕ってくれる相手って感じか」
当時の様子を思い出したのか、日向は苦笑いを浮かべながら話す。
「全能者って知られていたからな、風見の奴。それに運動や勉強も出来たから嫉妬の嵐で、仲の良い同世代なんていなかった」
ルカは「あー…」と納得した声を出す。
特別教育を施されている子供の集まりだ。全員、プライドが高いだろう。その中でも特に秀でいたのなら、周囲としては面白くない筈だ。
「ナギは?あいつも同じ立場だったろ?」
「あいつはミラさんに常にボコボコにされていたからな。常に生傷が絶えなくて、嫉妬より同情されていた」
「……」
「だからと言って、ナギも一人だったけどな。主にガリ勉系の奴等からの嫉妬が多かった」
日向の言葉に、ルカは頭を抱えた。もし自分も幼少期にアルカナにいたら、そっち側にいたのではないかと思ったのだ。
日向は「安心しろ」と鼻で笑った。
「お前は脱落した候補生達と違って、クズじゃないから」
「どう言うことだ?」
「風見は嫉妬はされても武力があったからな、直接的な虐めや嫌がらせは受けていなかった」
「……」
嫌な予感がして、ルカは口を噤む。日向は遠い目をして言った。
「年に一度成績優秀者が表彰されるんだが、ナギを妬ましく思っていた連中が集団リンチしようとしたんだよ」
あれは10歳くらいの事だった筈だ。性的暴行がなかった事が幸いである。
「それを風見が助けに入ってな、そこから二人の関係は始まった」
「…風見がいてくれて良かったと、初めて思ったよ」
ルカは安堵に似た息を吐く。その様子に日向は笑った。
「その後、色々言われてナギがパルクールを取得するに至ったんだ」
「どう言う事だ?」
「ナギは虎の威を借る狐とか、風見は用心棒とか、共依存とか、『ナギは風見を盾にしている』とか言われたんだ」
「器の小さい奴等だな…」
「で、どうにかしようと模索した結果、ナギは逃げ専になったわけ」
初めは武力行使を考えた。それでも、いずれは性差で敵わなくなるし、魔法も攻撃向きではない。
それなら守りーーー逃げに徹して、後に報復する方が効率がいい。
「ちょっとまて、報復行為だと?」
「あいつがやられっぱなしな訳ないだろ。トラウマを植え付けていた」
どんな事をしたんだよ…とルカは身震いする。
「知識は力なり、を体現したような子供だったよ…」
と、日向も苦笑いを浮かべたのだった。
明日も続きます。