小噺②
下世話な話になります…。
おそらくバレているだろうな、と思いつつルカは飲みを誘ってきた相手ーーー日向を盗み見た。
取り敢えずお互いに頼んだビールが来ると、ようやく日向は口を開いた。
「おめでとう」
「…ありがとう」
その意地の悪そうな笑みが、何を指しているのか分かり、ルカは礼を述べる。
グイッと飲むと、日向はプハッと息を吐いた。
「よく頑張ったよ、お前。誰も落とせなかったのに」
バンバンッと背中を強めに叩く日向。ルカは苦笑いを浮かべた。
「で、どうだった?具合は?」
「言うか、馬鹿」
ノリが悪いなぁ、と日向は笑った。しかしそれよりも、ルカは先程の言葉を聞き逃さなかった。
「誰も落とせなかったって本当か?」
「あぁ、少なくとも俺は知らないぜ」
「……」
ルカは神妙な面持ちで黙り込む。その様子に日向も若干心配になった。
「…他の奴の名前でも言ったのか?」
ルカは首を横に振る。
「いや…男じゃない」
「…風見か」
日向は超絶微妙な表情を浮かべた。事の最中に他の男の名を呼ばれるのは当然嫌だが、親友の名を言われるのも何とも言い難い。
「あいつらって、そう言う関係だったっけ…?」
「違うと思うぞ。『風見を取られた、悲しい』って泣きじゃくってたからな」
別にルカを風見と呼んだ訳ではない。
日向は「なら気にすんなよ」と鼻で笑った。しかしルカの表情は晴れず、まだ何かあるのかと、日向は首を傾げた。ルカは重々しく口を開く。
「あいつ、初めてじゃなかったんだよ」
「…あぁ、なるほど」
ルカの言葉に、日向は理解する。そしてルカが誤解している事も。
「幹部候補生は18〜20歳の間に性教育を受けるからな」
「もしかして、実習あり?」
「実習あり」
日向は平然な顔で言い、ルカは「まぁ、そうだよな」と目を逸らした。
「俺も父さんの知り合いに卒業させてもらったし」
サルトゥスはいずれルカが街で暮らし、人と関係を作る事を望んでいた。その為に必要だと思う一般教養は叩き込まれている。
いや、それこそ「どんな場所でも生きていけるように」と必要以上に知識を詰め込まれている可能性が高い。任務をこなしていて、時たま風見達よりも知識があると思う事があり、なんとかナギに付いていけてるのも、父のお陰かも、と言う気がしなくもない。
日向はゴクっと喉を鳴らして、ビールを一口飲んだ。
「アルカナでは大体、一回り上の相手とするな」
「…ちなみに、あいつの相手が誰だったか知ってるか?」
ルカの問いに、日向はジト目を向ける。
「聞いて後悔しないか?」
「…あぁ」
一拍開けて、ルカは決心した面持ちで頷く。日向は溜息を吐いて答えた。
「常盤」
「常盤ぁ!?」
ルカは驚愕し、後ろに退けぞった。「店の中なんだから、静かにしろ」と日向は注意する。
ルカはショックを隠せずに項垂れた。
「確かに一回り以上だけど…他にいただろ」
「ちなみに風見は、総帥になる前の鵠沼総帥だぜ」
「うわっ、マジかよ」
そう言えば、鵠沼も常盤達と同世代か。確か3〜4歳、若いって聞いたな。
ナギは常盤と、風見は鵠沼と…自分で聞いて何だが、知らなければ良かったと少し後悔してしまったルカ。
そんなルカの様子に「言わんこっちゃない」と日向は呆れた表情を向けたのだった。
続きます。