小噺①-2
近くにある国立広場では、先日からクリスマスマーケットが催されていた。
「昼間なのに、結構人がいるんだな」
広場には普段と比べ物にならない程の人が集まっており、何処かで演奏をしているのか鉄琴の音が聴こえる。
「ルカっ!グリューワイン飲もう!」
と、ナギが腕を掴んで引っ張る。示す先には、ホットワインが売られていた。
「…本当に平気なんだろうな?」
「強くはないけど、弱くもないよ」
「……」
俺は疑いの眼差しを向ける。そして溜息に近い息を吐くと、ナギより先に注文した。
「グリューワインとホットチョコレートを一つずつ」
アルコールに弱い人または子供用に、ホットチョコレートも売られていた。店員からマグカップを渡される。
マグにはクリスマスらしく、真っ赤な地に白字でツリーやトナカイ、雪の結晶が描かれていた。
「半分ずつ飲もう」
そう言って渡すと、ナギは嬉しそうにはにかんだ。
部屋で食べてから、そう時間が経っていない事もあり暫く俺たちは雑貨などを見ていた。
胡桃やプラムで出来た人形やスノードーム、くるみ割り人形や様々なオーナメントが売られている。
「ツッヴェッチゲメンレは飾ると夫婦円満になるんだって」
「…プラム人形の事か」
お前、よく噛まずに言えるな。
「昔、風見達に揶揄われたからな。練習したんだ」
ナギは得意げに笑う。が、次の瞬間、瞳に影がかかった。忘れてはいなかっただろう。心の奥で思っていた筈だ。
何せ今までクリスマスマーケットには、ナギは風見と来ていたのだから。
去年、ナギは「風見と行ってきたんだ」と、クリスマスマーケットで買ったアドベントカレンダーを執務室に飾っていた。
中のお菓子を、毎日楽しみに食べていたのを覚えている。
「…今年はいいや」
そう呟くナギの見つめる先には、アドベントカレンダーが売っていた。俺はギュッと胸が苦しくなる。顔を伏せると、ある物が目に止まった。
「…なら、今年はこっちにしろ」
「えっ?」
そう言って、俺は手前に置いてあった焼き菓子を示す。
それは坑道と言う名のケーキであり、真っ白な様子がお包みに似ていると言う事からクリスマスの定番ともなったケーキだ。
「俺と一緒に食べていこう」
シュトーレンを示しながら言う俺に、ナギは少し目を開いてーーー次に悪戯な笑みを浮かべる。
「つまり、毎日会いたいって事?」
「……」
顔が赤くなったのは、きっとワインのせいだ。そう思おうとして、俺は顔をナギから背けた。しかし
「ねぇ、ルカ…」
ナギが両手で俺の頬を包み、強制的に顔を向けさせられた。そんな強い力じゃないのに、俺は抗えない。俺に朗らかな笑みを向けるナギ。
そっと俺の耳に口を近付けてーーー
「あの時の言葉、もう一度言って?」
そう囁かれ、俺はさらに顔を赤らめた。ナギは愛おしさ半分、悪戯心半分と言った表情を浮かべる。唇が触れるまで、あと少し…。
頬を挟んでいたナギの手が、ゆっくりと下へと動いた。その動きに意識が持っていかれる。首を過ぎ、肩に触れ、次にーーー俺は羞恥心を捨ててた。
ナギの手を掴み、抱き寄せる。ナギはバランスを崩してよろめくと、俺へと倒れ込んだ。抱き込むように受け止め、俺は仕返しとばかりにナギの耳元でリクエストに応える。
「ずっと離さない」
ナギは赤面し、後に懇願する様に謝ってきたが、俺の心は既に決まっていた。
後で覚えていろよ、と。
イチャイチャしやがって…と思いながら書きました。
実はまだ続きます。
明日は少し算数の問題が出てきます。