過去編-寧ろ温情か
思い出されるのは、先程のフルメン達とのやり取りだ。
「ナギ、自己流詠唱が使えないと宣誓してみろ」
その言葉に、私は固まった。体温が一気に奪われる。手が震え出したので抑える為に、血が出るのではと思うぐらいに握りしめた。
「何故、それを」
「…常盤の置き土産だ」
そう言って、フルメンは近くにあったタブレットを操作する。私に手渡すと、動画が再生された。
『良かった、生きているんだな』
「!」
映し出されたのは、風の檻での事だった。アングルから考えると佐倉の背後に設置されていた様だ。
『あぁ、そうだーーールカは違うからな?』
「!!」
詠唱の様子が嫌味なくらい、はっきりと映っていた。
その後の殺戮映像が流れる中、私は崩れ落ちる。
「常盤が言っていた事は、これか」
私は青い顔で呟く。
オリジナルを使う時は、周囲を念入りに確認している。それでも見つからなかったと言う事は、恐ろしいほど巧妙に隠されていたのだろう。それにあの場所自体、風が吹き荒れていて視界が悪い。
常盤の言葉が脳裏に蘇る。
『それは本来、探索用の魔道具だ』
『あの時、お前が持っていればルカは助からなかっただろうが』
『それよりずっと重要な事を握られずに済んだだろうに』
あの魔道具は超音波を発生させ、探傷する。
超音波の反射によって、傷の位置、大きさなどを推測することができるのだ。これはお腹の中の赤子を見るエコーにも使われている原理である。
霰はこれと共振を用いて探索用の魔道具に仕上げたのだった。
叫びたい衝動を抑えながら、私は震える声で問う。
「火炎による監視は、寧ろ温情か」
「あぁ、此方としてはお前の存在は好ましくないからな」
ヒュエトスが嫌味たらしく答えた。フルメンとゲフリーレンは哀れみの表情を浮かべる。
「本来なら秘密裏に処分する所だが、お前は神の眷属だ。それにーーー」
フルメンの言葉をゲフリーレンが引き継ぐ。
「お前の頭の良さは、各国共に買っている。殺すよりも生かした方がいいと判断した」
そう言うが、二人の様子からおそらく相当擁護してくれたのだろう。
アルカナにーーー鵠沼に知られれば、すぐに私は発表される。渇望して止まない、喉から手が出るほど望んでいた成功例がいるのだ。これでアルカナの悲願は達成される。
それは心底困るのだ。アルカナ派のやり方で悲願が叶うと言う事は、私の願いが絶たれるのと同義なのだから。
「軍属として監視する事になっている。地位は少佐だーーーすまない」
フルメンの搾り出す様な声に、私は力なく笑う。
「充分過ぎるよ、私の年齢で佐官なんて」
レイより上かぁ、なんて強がってみるが、より惨めに見えるだけだった。