過去編-あれは餞別だ
オリジナルの事は霰さんの魔道具と置き換えて、私は当時の様子を話し終えた。
「常盤が言い残した"あれ"とは、鵠沼に提出した書類だよ」
瓦礫によってグシャグシャにはなっていたが、幸運な事に二次災害が起こらなかったおかげで書類は無事だった。
「鵠沼に偽の書類を渡したとでも思ったか?」
図星だったのか、三人は無言だ。
私は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
常盤は分かっていたのだ。私が常盤の死を偽装し、誰かを身代わりにすると。
故に、事前に虚偽の書類を作成していたのである。
そして選ばれたのがーーー村崎だった。
「常盤がわざと私に村崎を斬らせたのも、信憑性を出させる為だろう」
あの時、常盤はまるで村崎の奇襲を教えるかの様に視線を動かした。
ーーーミラの遺志を汲んで、
私は常盤の言葉を思い出す。
「師匠は私が生きる事を望み、霰さんは私を許そうとした」
その遺志を尊重出来るーーー手を貸せる範囲が、偽装の手伝いだったという事だ。
フルメンは目を伏せ「そうか」と頷いた。
「村崎は行方不明と言う事だが、本当か?」
「あぁ、だが…」
それは遺体の破損が悲惨過ぎて、判別出来ないからと思われる。
あの場にいた皆が、同じローブを羽織っていた。
遺体のローブは潰れた血肉にプレスされ、階級を示す模様は血や砂埃などで殆ど塗りつぶされていたのである。
「それに浅かったとは言え、私に腹を斬られている。建物の倒壊から逃れていても、そう永くはない」
すぐに治療すれば話は別だが、すでに村崎が首謀者だと発表されてしまった。今後アルカナに戻ってきたとしても、責任を追及されるだけである。
「自分でやっといてなんだがーーー胸糞悪い話だ」
そう、だから常盤は言ったのだ。
地獄で待っている、と。
ーーーあぁ、そうだな。
私は心の中で頷く。そしてそっと呟いた。
「私も必ず泥に沈もう」
その呟きが聞こえたのか、ヒュエトスは珍しく憂う様な表情を浮かべたのだった。
そりゃ村崎も恨むよなぁ
(同盟編「こんな事、望んでない」を読み返して頂けると分かります)
【どうでもいい話】
『選ばれたのはーーー村崎だった』と言う箇所がどうしても
『選ばれたのは、綾鷹でした』
に聞こえてならない(個人的に)。
シリアス展開のはずなのに…。