過去編-そうだろう?
部屋にはフルメンの他にゲフリーレンとーーー
「まさか此処でお会いするとは、ヒュエトス」
会いたくないどころか、記憶からも消し去りたい人物がいて私は僅かに目を見開いた。つい蔑む様な眼差しを向けてしまう。
それをフルメンが咎めた。
「ナギ、お前とヒュエトスに確執があるのは知っているが、今日はその為にお前を呼んだ訳ではない」
分かっている。今回の件についての言及だろう。私は冷ややかにフルメンを見た。
「それならゲフリーレンから話すべきじゃないのか?魔薬の売買ーーー佐倉は"自国に出回ったら困るから"と言っていたが、本当は違うだろう?」
私の問いに、ゲフリーレンは真剣な面持ちで「どう言う意味だ?」と惚ける。
私は嘲笑した。
「本当はバイオ兵器として使う為ーーー来る大地の国からの侵攻に備えて、だろう?」
私の言葉に、ゲフリーレンだけでなくその場の全員が無反応だった。私は言葉を続ける。
「注目するべきは氷雪がアルカナ派と"手を組んだ"事ではない。貴族主義の国が"どうして"手を組んだのか、だ。さっきも言った通り、一部の連中は蔓延したら困るからと思っている様だが」
そこで私はチラリッとヒュエトスを見る。
「…この数日、火炎とミネルバ派で魔薬中毒者の治療を施したら、充分回復の兆しが見れた。料理に混ぜて提供、と言うルートだったお陰で、一人一人の摂取量がそこまで多くなかった為だ」
同様のルートを用いるかは定かではないが、わざわざアルカナに屈する必要などない。
「二年前の密漁事件と同様に、同盟国に協力を依頼すればいいだけ。なのにそれをしなかった理由は」
私は席に座っている三人を睨んだ。
「佐倉の様な下っ端じゃないーーーアルカナ派の上層部は大地の国にある技術を持ち掛けたんだ」
ある技術ーーーそれは
「ドゥンケルシュタールの効果範囲の加工。そうだろう?」
霰さんが遺したあの屋敷には、効果範囲を弄られたドゥンケルシュタールがあった。その技術は不明だったが、おそらく開発部にいたアルカナ派が秘密裏に解析に成功し、大地の国に売ったのである。
「通常、ドゥンケルシュタールは魔法破りに使われたり、金庫などの魔法がかからないようにする物に使用される。理由は効果範囲が球状であり、持っている者も魔法が使えなくなるからだ」
しかし効果範囲を弄れれば、その問題は解決する。