過去編-お前は参加しなかったんだよな?
氷雪の国から戻ってきたルカと合流する。ルカの無事に安堵する暇もなく、私は鵠沼やフルメンに魔薬製造、研究に関わっていたアルカナ派の一掃を説明した。
その後、火炎の国の連名で疾風の国との話し合いに漕ぎつけ、何とか魔薬の回収を行う。
そして先日、火炎、氷雪、疾風そしてアルカナの代表同士での話し合いが行われたのである。
「お前は参加しなかったんだよな?」
「あぁ、“させてもらえなかった”と言った方が正しいかな」
現在、私はフルメンに呼び出されていた。
場所はフルメンの執務室ではない。会員制で限られた者しか入れない館である。更に部屋自体にも、中にいる者の承認がないと入室出来ないようになっていた。
「此処を使うって事は、相当面倒事だな…」
「そうなのか?」
ルカが初めてくると言う事は、以前来てから数年は経っていると言うことか。私は目を伏せた。
「今回の件は、各国に大きな爪痕を残した。たとえアルカナ派が行った事だろうと、ミネルバ派もお咎めがあるのは確かだな…」
それに…と私は何とも言えない表情を浮かべた。
「首謀者である村崎が行方不明と言うのが大きい」
実は此処に呼ばれたのは、ナギだけだったりする。
「俺も総帥に呼ばれてるんだよなぁ」
何を言われるのか見当も付かず、嫌な予感がする。ナギは不安そうな顔で俺を見つめた。
「…行ってくる」
何か言おうとして、けどナギは口を閉じた。
建物の中にナギが入ったのを見届けると、俺はアルカナ本部へと転移したのだった。
先日、風見は正式にアルカナ派だと表明した。そして
「俺もアルカナ派に行く」
日向は申し訳なさと、決意が混ざった何とも言えない表情を浮かべて言った。
「アルカナ派に、風見の味方はいないーーー俺はあいつの側にいるよ」
ミネルバ派であった記憶を消され、洗脳紛いに偽の記憶を植え付けられた風見。
アルカナ派に利用されるのは目に見えている。
「二重スパイにはなれないのか?」
俺の問いに、日向は首を振る。
「アルカナ派だって馬鹿じゃない。それに、俺がアルカナ派へ行く条件として、風見と絶対に連絡が取れる様にって事を要求している。これを反故にしたら、奴等の思う壷だ」
協力的でなくても構わない。アルカナ派にとって、ミネルバ派の戦力が削げればいいのだ。
「ナギ、お前が宣誓すれば或いはーーー」
「無理だ」
日向の言葉をナギが遮った。首を横に振る。
「たとえ私が宣誓しても、以前の様にはいかない」
「それでも、アルカナ派に行かれるよりはマシなんじゃ…」
暗い眼差しで、ナギは俺達を見た。
「それこそ二重スパイにでもなられたら、私達では致命的だ。今のミネルバの梟に、信頼の置けない者を受け入れる余裕はない」
ミネルバの梟ーーーそれが独立したミネルバ派の組織名である。
同盟編『お前に頼んだのだ、当然だろ』で使った屋敷と思って下さい。