過去編-ルカは違うからな?
「!」
今度は佐倉が驚く番だった。私は言葉を続ける。
「記憶を失っていようと、私の敵になろうと構わない。風見が生きているのなら、私の事を忘れるなんて些細な事だ」
私の事を忘れるのも、敵対する事になるのも、悲しい事だ。そう、悲しい事であって最悪ではない。
最も忌避するべき状況は、風見が殺される事なのだから。
「話せば思い出してくれるとでも思ってるの?そんな簡単に奇跡なんて起きないわよ」
「あぁ、特に私は奇跡や運に見放されているからなーーーあぁ、そうだ」
私は言葉を一度切り、そしてにっこりと笑ってお望み通りに言ってやる。
「ルカは違うからな?」
「!!」
驚愕する佐倉。その瞬間、私は詠唱した。
囲まれていたのは分かっていた。準備が整い次第、私を撃とうとしていたのを知っている。
故に私は詠唱したのだ。奴等が喉から手が出る程、欲しがっている魔法を。
「嘘よっ!何故!!」
佐倉が目を見開きながら叫んだ。
「だって、貴女は人工能力者の筈っ!」
あぁ、そうだよ。わざとらしい朗らかな笑みを浮かべ、私は杖を振ったのだった。
力業はあまり好きではない。けど、その力に頼らなくてはならない時はあるのだ。
「な、ぜ」
途切れ途切れに佐倉は問う。
「貴女が、、自己流、詠唱を使えると、、発表すれば…!」
自分の首を絞めているせいで、絞り出すような声しか出ない。私は佐倉の疑問には応えず、杖を持つのと逆の手で剣を抜いた。
「この場にいるアルカナ派全員が首を絞めて自殺、なんて不自然すぎるからな。こっちで始末させてもらうよ」
「!!」
より一層目を見開き、そして憎々しげに私を睨むアルカナ派達。
私は剣を振り下ろした。
その後、隠されるように建てられていた研究所を発見し、中にいたアルカナ派及び被験体も同様に始末する。
「アテナ様は全てに復讐するのなら、と言った」
研究所にあった大量の魔薬を前に、私は虚ろな眼差しで己が所業を見つめる。
「アルカナや人工能力者たちを助ける事が、私の目的ではないんだよ」
その呟きを掻き消す様に、風が吹いた。
この時、私は致命的なミスをした。
哀愁などの浸らなければ、一時でも信頼していた佐倉に手をかけたと、気を落とす様な弱さなど持たなければ、
私はアルカナから離れる事なんてなかったのに。