過去編-流石だわ
「此処に連れてきたのは、私の香りを防ぐ為?確かに、私の能力と相性が最悪な環境よね。けど、貴女には魔道具があった筈」
チラッと私の持つ愛剣を見る佐倉。
「使いこなせていない、と思って良さそうね」
「どう思ってもいいよ」
「役に立つ力を手に入れたのに…宝の持ち腐れとはこの事」
ふふっと佐倉は笑う。
「流石だわ。疾風の国で魔薬をばら撒いたり、何店舗かの料理に混ぜて提供させた理由は『被験体の確保が難しくなったから』と『人工能力者が摂取した場合はどうなのか』を知る為。そして『貿易港を持つ氷雪への交渉もとい脅迫材料』」
人工能力者はアルカナ派にも当然いる。しかし誰が好き好んで実験に参加するか。
そこで選ばれたのが、ミネルバ派である。
「対立派閥であろうと、同じ組織に属するのにか…」
「先に邪魔してきたのはミネルバ派でしょう」
睨む私に、佐倉は嘲笑った。
「自国で蔓延したら困ると、氷雪の国は言い値で買ってくれるそうよ。それを知った火炎の国は大慌て。今後、どうなるんでしょうね」
底意地の悪い笑みを私に向けてくる佐倉。私はギリッと歯を食いしばった。
「…疾風で実験し、氷雪に売り付け、火炎にその情報を流す。各国の友好関係を壊すのが目的か」
アルカナ派の真の狙いを私は理解し、佐倉は嫌みたらしく「流石」と拍手したのだった。
佐倉は勝ち誇った様に笑う。
「真実を知った所で、全て手遅れよ!どうやったって、巻き返しなんて出来ないわ」
「…それはどうかな」
私は苦々しく言った。その様子に、佐倉は底意地の悪い笑みを浮かべる。
「負け惜しみね、もし違うなら宣誓してみなさいよ」
ふふふっと嬉しそうな顔をする。出来ないでしょう?と佐倉は首を傾げた。
「両翼をもがれた鳥は、飛べずに空を見上げるくらいしか出来ないのよ」
「両翼だと…?」
わざとらしい佐倉のたとえに、私は反応する。佐倉は得意げに「えぇ」と答えた。
「薬品で風見の記憶を消したのよ、貴女の事をね。そしてルカも」
「!!」
今日一番の驚愕だった。ギリッと歯を食い縛りーーーそして緩める。
朗らかな表情を浮かべる私に、佐倉は眉を顰めた。私は声に出す。
「良かった、生きているんだな」