過去編-使いこなせていない、
つまりアルカナ派は、魔薬への影響として魔力を持たない一般人やミネルバ派の人工能力者、そして普通の能力者と、無差別に提供しそれぞれを観察していたのである。
「私のせいで被験体が入手困難になった為、そして氷雪の国への脅迫にこんな事をしたって所か」
魔薬の開発中、早々に発覚した自我喪失と言う副作用。この危険性を考え、研究は治験まで行かずに打ち切りになった。
しかしアルカナ派は秘密裏に研究を続けており、治験を行おうとした矢先に、ナギ達による烹鮮との取引を潰されたのである。
「魔薬が入っている事がバレないよう、ブランデーの匂いにしたんだな」
私は一度言葉を切った。そして
「そうだろう?香りの魔女」
嗅覚は視覚や聴覚、触覚などの他の感覚器とは違い、直接脳の中枢部である大脳辺縁系へ届く。大脳辺縁系はその働きがまだ完全に解明されていないが『海馬は記憶』『扁桃核は情動』と言った、本能的な欲求や情動、記憶と結びついていることが分かっている。
「匂いで人を操れる程の力はないが、自我喪失の子供くらいは手懐けられたのだろう」
もともと保育士として子供の扱いが慣れている事もあったのだろう。
「逆よ、この能力があったから教育者と言う職業を選んだの」
佐倉は鼻で笑った。
「ブランデーと言われて分かったわ。貴女、店で食べたのね」
「……」
「風見のフリをして連絡していたと聞いていたけど、貴女にも摂取させようと店に誘導したのね」
ナギが甘味に目がないのは有名な話だ。美味しいケーキがあるとでも言えば、簡単に食べさせる事が出来る。ましてや、風見からの情報となれば。
「いつ食べたのかは知らないけど、気持ち悪くなったでしょう?」
「…やっぱりか」
佐倉の言葉に、私は調べて貰ったデータを思い出す。佐倉は「敵なのに正しいデータを渡してあげたのよ、感謝しなさい」と鼻で笑った。
「魔薬には微量の魔力が含有しているわ。故に能力者達が摂取すると体内の魔力許容量をオーバーして、魔力酔いを起こす」
「だから、集団で摂取しても体調を崩す者と平気な者がいた…」
私の言葉に佐倉は笑みを深める。
「そう、そして悪酔いと間違えるくらい体調を崩すのは人工能力者だけよ」
そしてわざとらしく言葉を一度切り、今日一番の笑みを浮かべた。
「そうでしょう?人工能力者のナギ」




