解説-狙い通り、
私は風の檻と呼ばれる森に来ていた。
逃げた被験体の子供は、人工能力者であるにも関わらず風を使った。つまり、
「狙い通り、風使いが発現してよかったなーーー佐倉」
「まさかと思いましたが、ご存知だったんですね」
ルカに氷雪の国に行くよう指示した後、私は色々と調べ、およそ半日後、佐倉を連れて此処に来た。
今頃、ルカは常盤と対峙している頃だろうか。
佐倉は途中までは「ナギ様?」と不思議そうに首を傾げていたが、国境にーーー風の檻に近くにつれ、口数が減っていった。そして
「私がアルカナ派って、いつ知ったのでしょうか」
「子供がお前だけ狙わなかった所とか、ホテルの件とか色々疑わしい事があった」
ホテルの件ーーー風見には疾風の国で任務があるとしか伝えていなかった。
通常、支部に仮眠室や客室が用意してある場合、わざわざホテルは取らない。にも関わらず、風見はホテル近くのビストロを勧めてきたのだ。
ビジネスホテルで寝泊まりすると話したのは、佐倉だけである。
「最初は『支部の近くだから勧めてきたのかな?』と思ったけど、日向からの情報でそれは疑惑に変わった」
私の言葉に、佐倉は眉を顰めた。
「日向からどうやって?アイツは今、アルカナ派に見張られているのよ?」
佐倉達アルカナ派は私と日向が一度電話しているのは知っている。あの時はまだ、私達にバレないよう日向に電話を出ることは許したが、余分な事を言わないよう見張っていたのだろう。
私はトントンッと愛剣の柄を叩いた。
「古臭い手段だったが、モールス信号だよ。聞いた時には唖然としたがな」
苛立った様に机を叩いていた指の音。傍にいた見張りはきっと「状況を伝えられないもどかしさで苛立っているのだろう」とでも思ったのだろう。それが私への情報伝達とは気付かずに。
「伝えてきた内容は『常盤がアルカナ派である事』そして『氷雪の国がアルカナ派と魔薬の売買契約を結ぶ事』。その2つと後の状況を照らし合わせれば、佐倉、あんたしかいないんだよ」
風見が常盤に囚われたと仮定すると、ここ数日私とメールのやり取りをしていたのはおそらく常盤だ。その常盤に情報を流していたのが、佐倉。
「あの店の料理に魔薬を混ぜているだろう。そして摂取した客の様子を観察していた」
「よく魔薬入りのケーキを特定出来たわね。全ての料理に入れていた訳ではないのに」
「…偶然、ルカがテイクアウトしてたんだよ」
全て、または特定の料理に入れ続けていたら、常連客や勘のいい者なら気付く可能性がある。それを恐れ、一部の料理にしか魔薬を混ぜていなかった。
そして偶然私がその場で食べ、ルカがテイクアウトしたタルト・タタンに含まれていたのである。ルカに譲ってもらった後、分析すると魔薬の成分が検出した。
今回、解説回がかなり続きます。
どうか!どうか、お付き合いくださいっ(>人<;)