過去編-副作用?
「残念だけど、氷雪の国はミネルバ派を支持しないって決めたわよ」
「…どう言うことだ」
俺は風見ではなく、ゲフリーレンを見た。無視されたにも関わらず、風見は得意気な笑みを浮かべる。
ゲフリーレンは真剣な面持ちで答えた。
「氷雪の国は、アルカナと魔薬の売買契約を結ぶ事が決まった」
「魔薬の!?あれは人工能力者を作る為の物だぞ!」
つまり、氷雪の国は人工能力者の製造に手を貸すと言う事か。俺は睨み付けた。
しかしゲフリーレンは首を横に振る。
「魔薬による人工能力の発現目的ではない。これの副作用だ」
「副作用?」
俺は首を傾げた。ナギが
『危険という事で、研究が打ち止めになった』
と言っていたが、具体的な危険性は聞いていない。
風見は底意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「自我を奪うのよ。判断力は低下し、与えられた指示にだけ従う下僕と化すの」
「なんだとっ!?」
俺は目を見開く。そしてナギの言葉を思い出した。
『そいつら、人工能力者だ』とすぐに判断したのは、そう言う事なのか?
ゲフリーレンは「ルカ…」とこちらに申し訳無さそうな眼差しを向けてきた。
俺はキッと睨む。
「たとえ狙いが違ったとして、なら何故そんな危険な物を取引する?」
まさか強兵の為などと言うまいな。俺の言葉に、ゲフリーレンではなく風見が吹き出しながら答えた。
「馬鹿ねぇ、寧ろ危険だから管理する為に国が買い取るのよ」
「管理だと?」
そっ!と得意げに片目を閉じて風見は頷いた。
顔はナギに似ているはずなのに、ドキリとするどころか腹立たしく感じる。
「禁止されるほど、手を出したくなるのが人間でしょう?それに、裏でばら撒かれるくらいなら、ね」
ニヤリとゲフリーレンに意地の悪い笑みを向ける。ゲフリーレンは風見を睨み、そして怒りを抑えながら声を絞り出すように言った。
「あぁ、疾風の国の二の舞にならない為にな」
「疾風の二の舞だと?ーーまさかっ」
嫌な想像をしてしまう。それを風見は嘲笑った。
「お察しの通りよ!試験的且つみせしめとして、一足先に疾風の国で魔薬を流したわ。勿論、疾風の政府には内緒でね」
疾風の国では"能力強化の薬"と銘打って、市場に流していた。
「何故そんな事を…」
「それは、ナギから教育部なんて作ろうとしたからだよ」
「!!」
入口側から声が聞こえ、急いで振り返る。そこには常盤が立っていた。