過去編-知ってるよ
「痛いっ」
両手で顎を押さえ、涙目になる。くっそー、私が何をしたって言うんだっ!子供には逃げられるし!
「背中、大丈夫か?ーー大将を狙うのは当然だろう」
少し呆れた表情を浮かべるルカ。先程ルカが捕まえた子供はグッタリとした様子で倒れている。え?ルカ、何したの?
「まさか、さっきみたいに本気で蹴ったの?」
「そんな訳あるかっ!今回はこれを使ったんだよ」
昼に襲撃された際、いきなりの事で手加減が出来なかった。その為、本気で殴ったり叩きつけてしまったのだが、今回は違う。
ルカの見せてきた腕輪に見覚えがなくて、私は首を傾げた。
「何それ?そんなの持っていたっけ?」
「霰さんの遺産だよ。使い方によっては、相手の意識を奪う」
へぇ、と私はルカの腕輪をまじまじと見た。
「意識を奪うって、もしかしてクロロホルムでも出るのか?」
「…それは本気で言っているのか?」
「そんな訳ないでしょ」
私は入口の方を見やる。
先程襲撃してきた子供は、私に一撃加えた後、さっさと逃亡したらしい。
霰さんの遺産と聞いて、私はある可能性を考えた。
「ルカ、それってもしかしてーー」
私はとある事を聞く。
ルカは「あぁ、そうだな」と頷いた。その回答に私は拳を握り締める。
ダメだ、今はまだ。我慢しろ、まだ堪えろ。
ルカが心配そうな顔をして
「どうした?」
と手が伸びてくる。それに対して、私は
「ルカに頼みたい事がある…」
とルカの手を払い除けた。一瞬傷付いた顔をしたルカに、私は抱き付く。
思いもしなかった私の行動に驚愕するルカ。私はその耳元に口を近付け、
「タルト・タタンをテイクアウトしてるの、知ってるよ」
私の言葉に、ルカは固まったのだった。
俺は氷雪の国にいた。現在いるのは支部ではない。
「ゲフリーレン大臣…お忙しい中、お時間を頂戴し申し訳ございません」
「……」
無言のゲフリーレン。その隣には
「あんたがルカ?」
不敵な笑みを浮かべた女がいた。俺は苦々しく、その女の名前を呟く。
「風見…」
「あら、私の名前を知っているの?」
その言葉に、俺は拳を握り締める。なんでこうなった?何故、こいつはそちら側に立っている?