✴︎と、言うと?
そんな訳で清流の街についた私は、早々に目撃情報があった場所へと向かっていた。
シスター達に別れを告げると、ゴンドラを降りて脇道へと入る。奥に進むにつれ、元から狭かった道幅はさらに狭くなっていった。
「何もなさそうだな」
怪しそうな店や建物があるわけでもない。
と言うか、そもそも目撃情報の信憑性が低いと思う。
何故なら火炎の国に来た情報元が、先程乗り合わせたシスターからだからだ。
「託宣ねぇ…」
神と言うのか、人智を超えた上位の存在は知っている。
真理を従える者、理の上に立つ者、様々な呼ばれ方はされるが、そいつ等の誰かが、あのシスターに託宣と言う形で干渉しているとは思えなかった。
「そもそも、なんて言われたんだよ」
アルカナの一員が彷徨いているから私を呼べ、とか言われた訳でもあるまいし。
先程尋ねようか迷ったのだが、誰が聞いているか分からない場所ではマズいと思い、そのまま別れたのだ。
あーもー面倒臭い、と両腕を伸ばして伸びをした。
不意に、斜め前方の石橋を渡っていた人と目が合う。そして電撃が走った。
「日向っ!!」
「ナギッ!?」
手荷物を投げ捨てるかのように置くと、私は駆けた。日向も慌てて橋を渡る。
「逃すかっ!」
現在位置から日向がいる橋まで、高さが4メートル以上ある。
道と水路の境にある柵に片足で跳びのり、残った片足を大きく振って反動をつけて隣の建物の窓枠まで跳んだ。そしてまた橋に向かって跳躍し、装飾の出っ張り部分に掴まる。
そのまま体を大きく揺らして反動をつけ、脚が上に上がるのと同時に手を放した。遠心力で上半身も上に引っ張られる。体を曲げて一回転すると、橋の上に降り立った。
「大道芸人かよっ!?」
驚愕と諦めの二つを合わせた様な表情を浮かべる日向。なんとでも言え、勝ち誇った私は日向に近づいた。
「どうせ下っ端だと思ったら、思わぬ収穫だ」
「…なぁ、見逃して貰えないか?」
昔のよしみで、と片目を閉じながら言う。
が、可愛くない。
ルカとそっくりだろうと、私が甘いと思うなよっ!
「お前が動くような事だ。見逃す筈がないだろ」
まぁ、下っ端でも見逃すつもりはないが。
「俺だって、ホントはこんな所にいるつもりなんてねーよ」
「と、言うと?」
「強いて言うのなら、尻拭い」
お前じゃないから宣誓は出来ないけどな、と付け加える日向に、私は「根拠は?」と問う。
日向は一枚の写真を胸ポケットから取り出した。受け取ると、見覚えのある人物が写っている。
「ゲッ、村崎」
こいつ、やっぱり生きていたのか。