過去編-精密検査は必要だ
私とルカは街を歩いていた。先程まで打合せやら面接やらと忙しく、お昼休みは息抜きがてら外に行こうとなったのだ。
先程風見からメールがあり、教えてもらった店へと向かう。
「ミネルバ派だけでなく、外部からも呼ぶんだな」
「仕方なくね」
疾風の国から施設を建てるにあたって出された条件が、疾風の国民の受け入れだった。うち何人かは行政から出向してくる。
「天下り先として使われるなよ」
「当然!私がアテナ様の眷属である限り、そんな事はさせない」
私は自信満々に答える。
「それに元々交流のある人物しか受け入れるつもりはない。折角独立したのに、スパイが入ってきちゃ意味ないし」
と言っても、入り込んでくるだろうなぁとボンヤリ思う。どんなに注意しても、どんなに入念に調べたとしても。
「あ、此処の通りじゃないか?」
と、ルカがスマホを見ながら脇道を示した。
「風見もよく知ってるな」
「そうだなぁ、私と同じ火炎の国で育ったはずなのに」
任務の合間に探したりするのだろうか?
ルカがボソッと
「あの過保護なら、お前の為に事前に探してそう…」
と言ったらしいが、私には聞こえていなかったのだった。
事件は店を出た時に起こった。突然、見ず知らずの数人に襲われたのである。
「正面から来るのはいいけど、鉢植えは怖かった…」
店を出た瞬間、頭上から落ちてきた鉢植え。ギリギリ当たらなかったから良かったが、流石に肝を冷やす。
「あと、これはどう言う事だ?」
ルカが道で伸びている襲撃者達を見る。
「立場上襲撃されるのは慣れてるけど、子供に襲われたのは初めてだな…」
そう、今回は子供なのである。それも10歳前後の。もしかしたら全員、10歳になっていないかもしれない。
お前は?と問うように見てきたので、私は首を横に振った。
ルカが気を失っている子供を道の脇へと運ぶ。全員運び終えると、大きな怪我をしていないか確認していた。
「よかった、頭を打ったりしていないな」
「けど、精密検査は必要だ」
え?と驚きの表情を浮かべるルカ。私は支部に電話をかけた。コール音を聞きながら「そいつら、人工能力者だ」と短く答える。
「嫌な予感がする。ーー幹部会で取り止めになった筈なんだが」
アレはまだ、治験に回していなかった筈だ。一度だけ人に飲ませたが、問題ないと判断されていた量だけである。
それに、一度の服用では能力は発現しない。
「アルカナ派め…疾風の国で続けていたな」
危険と判断され、打ち切られた魔薬の研究を。