過去編-コレの賞味期限っていつですか?
「なんだりょ!わりゅいか!」
「おい、噛み噛みだぞーーーって、まさか」
何故か体がふわふわしている。なんか頭が働いていない気が…。
「え、まさかコレで酔ったのか?」
ルカの驚く声を最後に、私は意識を失った。
タルト・タタンが運ばれてきた時、確かに酒の香りはした。けど、そんなので酔うか?
しかし現に、具合悪そうに寝ているナギがいた。先程まで恍惚としたーーキスをした時と同じ無防備な表情を浮かべていた顔を、今は青くしている。
「眠い」と言うより「吐きたい」と言う様な感じだ。
「酒を飲んでいる姿を見た事がなかったが…」
スイーツには紅茶。たまにコーヒーを飲んでいるのを見る。しかし酒を嗜んでいる姿は見た事がなかった。
「…すみません、コレの賞味期限っていつですか?」
「タルト・タタンですか?冷蔵なら一週間くらい持ちますよ」
通りかかったウェイターを呼び止め、俺は少し考える。そして
「追加で、テイクアウトって出来ますか」
これは決して下心があってではない、絶対に。
会計を済ませて、顔を青くするナギをなんとかホテルまで連れて帰る。
部屋に入り椅子に座らせると、ミネラルウォーターを渡した。ナギは「ゔぅ」と呻きながら、水を飲む。
「気持ち悪い…」
「そんなに弱いなら、気を付けろよ」
酒入りのお菓子なんて、今までも食べた事があったろうに。よく懲りもせず頼んだな。
「って、おいっ!そこで寝るな!」
いつの間に靴を脱いだのか、ナギは脚を抱える様に丸まると横を向いて、背もたれに寄り掛かった。そのままスヤァと寝息を立てる。
「また風邪をひいても知らないぞっ!」
と言うが、もう深い眠りについている様だ。
俺は頭を抱える。
「お前は…まったく」
意図していないのは分かっている。だが、少しは警戒しろと言ってやりたい。
溜息を吐きながら、仕方なく俺はナギをベッドへと運ぶ。
顔を覗くと、水を飲んだおかげか先程より顔色が良くなっていた。
「ナギ…」
そっと頭を撫でると、俺は自分の部屋へと戻ったのだった。
翌日、私は起きると「あれ、昨日どうしたんだっけ?」と全く覚えておらず、
「そんなに弱いなら、気を付けろっ!」
とルカに怒られた。
もしかして、ルカやお店に迷惑かけてしまったのかと慌てたが、暴れたりリバースした訳ではなかったらしく、安心する。
「おかしいな…たかだかあれだけで酔う筈ないのに」
「事実を受け止めろ」
ルカの言葉に、うーん…と私は考える。
「今まで一度も、お菓子に入ったお酒で酔った事はないのになぁ」