過去編-実はまだ
いや、ここで突っ込んだ方が負けな気がする。俺は咳払いをすると遠くを見つめる様な眼差しで
「話を戻そう」
と言った。二人は「あ、放棄した」と突っ込むが、それ以上は深掘りしてこなった。
「なんで教育部を?今のままじゃ駄目なのか?」
「今ある教育部はアルカナの子供、つまり発展の世界の子供の教育であって、新しく作るのとは違うんだよ」
「と、言うと?」
「アルカナ派によって危険地帯に放り出されている、人工能力者の保護及びその後の面倒が目的だ」
ナギの言葉に、俺は驚愕した。
現在のアルカナの教育は、国籍を貰えない為に教育を受けられない先進の世界の者達の為のモノだ。その中で、幹部候補生と一般生に分かれた教育課程がある。
これは人工能力者の被験体達には、当て嵌まらない。むしろアルカナ派の連中は、自己流詠唱を発現させる為にわざと危険地帯に放置する。
「今までやって来てた事を、本格的に組織にするつもりだ」
現在はフルメン達に協力してもらい、各国の教育機関に受け入れて貰って保護した人工能力者達に教育は施している。
だが、受け入れ限度やアルカナ派の邪魔があり、思う様にいっていなかったのが現状である。時には保護した子供をアルカナ派に奪われ、再び被験体にされるなど辛酸を舐めた。
アルカナから切り離せば、情報漏洩や強奪は俄然減るだろう。
「実はまだ、風見達にも話してないんだよね」
「!!」
まだ内緒だよ、と悪戯っぽく笑うナギに、俺は抱き締めたい衝動に駆られたのだった。
佐倉を紹介したのは、教育部の具体的な活動内容や予算などを相談する為だった。
「資金を湯水の如く使う事は出来ない。まずは疾風の国から始めようと思ってね」
今回はまだ教育が不十分な国への強化も担っている為、まず火炎の国は候補地から排除した。火炎ではフルメンのお陰もあって、アルカナ派の強奪率が最も低いのだ。
氷雪の国でもゲフリーレンと言う大臣が味方にいる。しかし周囲には氷雪の国特有の貴族主義が多く、人工能力者受け入れてくれる施設自体が少なかった。
強化目的では条件に合うのだが、そもそも施設を造らせてくれなかったのである。
ゲフリーレンからも
「教育部の設立には協力するが、施設第一号は別の国にした方が良い」
と断られている。