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過去編-小噺⑦

 霰の屋敷から戻ってきて、俺とナギはそれぞれ覚えている範囲で、互いに解いた問題を出し合った。


「俺がそっちに行ってたら、一問目で駄目だったな…」


「これでも仕込まれているからね」


ナギは得意げに片目を閉じ、口の端を上げた。その様子に俺は少し膨れる。

分かってる、ナギとの差はまだまだ広いのだと。


「ちなみにこの問題、別の証明方法は知ってる?」


と、ナギが一つの問題を示した。俺はうっと詰まる。


『1=0.999…の証明をしろ。証明は一つで構わない』


「…他にも解答があるのは知ってる」


と言うか、俺が書いた証明も以前ナギに教わったものだしな。


ナギは「2つ答えろって指示じゃなくてよかったな」と意地悪そうに笑った。


「なら、ヒントをあげる」


「ヒント?」


そう言って、ナギは白紙にサラッと数式を書いた。


『A=0.999…



 A=1』


頭に代数を付けただけじゃないか。少し恨めしく思いナギを見ると、にっこりと作り笑顔を向けられた。

俺はもう一度、紙に視線を落とす。


「わざわざ代数を使って等式にしたんだ。等式の性質は、左右に同じ数を足す、引く、掛けても成り立つって事…」


ぶつぶつと呟いてみる。


「右辺を1にする為に、0.999…で割る、って言うのは有り得ない」


なら、1.999…から0.999…を引くのは?だがそうなると、1.999…なんて数字を左辺でも作らなければならない。

おそらく左辺に少数は出てこない。となるとーーー


「9.999…と、10Aか」


ようやく解答の道筋が見え、俺はペンを走らせた。


『両辺に10を掛ける。

10A=9.999…

次に、A=0.999を両辺から引く。

10A-A=9.999…-0.999…

9A=9

両辺を9で割る。

A=1』


「よって1=0.999は成り立つーーー合ってるだろう?」


「正解」


なーんだ、分かったか。とナギは面白くなさそうに呟く。


「じゃあ次はーーー」


「おい、何かあったのか?」


先程から目が合わない。わざと逸らされている気がする。

違和感を覚え、俺はナギの手を掴んだ。不意な事で驚いたのか、思った以上にビクッと震えるナギ。そして何故か俯いた。


「ナギ…?」


心配になって顔を覗き込もうとした。その瞬間、


「ルカのくせにっ!覚えてろよっ」


立ち上がって、ナギは走り去って行った。

ポツンと残された俺は、一拍空けて


「マジか…」


ナギが挙動不審な理由が分かり、今度は俺が俯いた。今、誰かに見られるのはまずい。

嬉しさにニヤけた表情など。


「意識してるって事でいいんだよな…?」


つまりナギは、以前の出来事で俺に主導権を握られない為に問題を吹っ掛けてきたのだ。それが失敗し、更に手を掴まれた事に反応すると言う弱みを見せてしまった。


故に捨て台詞を吐いて、逃げ出したのである。


「まったく…あいつは」


普段は余裕綽々で可愛げがないくせに。


「とてつもなく、愛おしくなるんだよなぁ」


そう呟いて、俺は愛おしさを噛み締めた。


明日はお休みいただきます。

次回更新:10/25

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