過去編-ちゃんと活用しますね
私は霰さんが眠る墓の前にいた。風見達から貰った魔道具を携え、手には花束が2つ。一つは師匠の分だ。
霰さんはーーー何を想って、これを遺したのだろう。
私へは、魔道具ではなく書類の束が残されていた。
内容は、風神の姫君ーーーアイについての情報。
風塵の姫君の事は知っていた。だが、アイの事は知らなかった。
おそらく私の復讐に関係する人物だと思い、調べてくれたのだろう。気付かずにいたら、きっと最期にアテナ様に痛い目に遭っていた筈だ。
「…この魔道具に付与されている魔法理論は、私宛だろうと思っていいのでしょうか」
それとは別に、書類の中には幾つもの論文があった。そして、特許権の譲渡を証明する書類も。
私は霰さんを私淑していたが、直接教わる事は一度もなかった。それを気の毒に思い、物ではなく技術を遺したのだろう。それにーーー
「初めて上に行く部屋を選択をした場合にしか、アレは気付かなかった」
後日、調査部隊が来た時には扉の模様はなかったらしい。
ルカは扉の裏にはフィボナッチ数が書いてあったと聞いた。そして部屋が螺旋を描いていたとも。
そして私が進んだ部屋の扉には、コッホ曲線が少しずつ変化する様が描かれていた。
「そしてあの部屋の絨毯には、シェルピンスキーのビスケットが描いてあった」
その二つはフラクタル、一部が全体と自己相似な構造をとる図形。
「これによって、どんな能力者でも使える魔道具を作ったのですね」
コッホ曲線によって、補正をして四大元素の分類にする。
論文には、魔力を持つ者は魔力量及び配向性によって、絶対に12に分類出来ると書いてあった。その数字の回数分、コッホ曲線は変化し、そこから四大元素にそれぞれ振り分けるらしい。
まだ半分程しか理解出来ていないが、霰さんが私に遺したのだ。おそらく理解出来ると思って。
「開発部の連中は欲しがるだろうな」
この魔道具だって、調べさせて欲しいと何度も乞われた。だが、分解でもされて元通りにならないなんて事があったら笑えないので、丁重にお断りした。うち、数人にはミランダ流肉体言語を用いたが。
「この技術と言う手札、ちゃんと活用しますね」
それが何年後になるかはわからないけれど。
そう言うと、私はその場を後にしたのだった。
明日は小噺です。