✴︎別に戦えとは言わないわよ
本編です。
ゴンドラに乗りながら、私は街並みを楽しんでいた。
「流石は水の国最大街、清流だな」
この街は、道路の変わりに街中に引かれた水路をゴンドラで移動する。
また、移動手段は水路だけでない。高い位置で建物同士に石橋がかけられており、空中での移動を可能にしていた。
それぞれ異なった位置で橋が架けられていたり、4方向から伸びた橋が水路の真上で十字路のように繋がっていたりと、その独特な街並みに観光地として人気を誇っている。
「軍の方とお見受けしますが、お仕事ですか?」
不意に、相乗りしていた女性に声をかけられた。振り返ると、2人のシスターがにこやかにに私の方を見ている。
今回の任務中、移動時は基本的に私服で過ごし、会談や謁見と言った場合のみ軍服を纏っていた。あとは前回の様に、森の中を歩くと言った重労働を強いられた場合。
現在は街の中であり、別にこれから誰かに会いに行く訳でもない。しかし私は軍服姿であった。
「少し野暮用がありまして」
「そうですか…。もしお時間がありましたら、是非教会にもお立ち寄り下さい」
そう言って、指を遠くへと向けた。示した先には、青いステンドグラスが特徴的な建物が見える。
あぁ、そう言えば、以前ルカが言ってたっけ。
「この街には、託宣をする聖女がいると聞きました」
「聖女だなんて」
と、一人は上品に笑い、逆にもう一人は「この街の宝です」と真剣に言った。その様子に、私はなんとなく気付いた。
「もしかして貴女が……?」
「神の御言葉を拝聴する能力を頂いています」
上品な笑みを浮かべる方は、ゆっくりといった。胸に手を当て、とても大切そうな物を預かっているように。
その様子に、私は何とも言えない気持ちになった。
「清流の街で、アルカナのメンバーだと思われる奴等が目撃されたわ」
火の国を出国する前に貰った、レイからの電話である。私は頭を抱えた。
「行く先々で、私の邪魔をするのな」
「あいつ等からしたら、貴女が邪魔しに来てる様に見えるわよ」
なんで私が?と文句はあるし、面倒臭い。しかし無視は出来ない。
しかも清流の街って言ったら、有名な観光地だ。梅雨が明けたらレジャーシーズンになるので、必然的に人口密度が高くなる。
そんな所で、アルカナと一戦交えろと言うのか。
市街地は逃げる側としては有利だが、戦闘行為となれば話は別だ。
「別に戦えとは言わないわよ」
私の思った事が分かったらしい。貴女なら情報だけ持って逃げられるでしょ、とレイは呆れながら言った。そして声を潜める。
「3年前の残党かもしれない。気を付けて」
小噺でルカ=ルーカス、レイ=レイチュルと、二人の本名が出てきましたが、小ネタ程度なので本編ではルカ、レイとなっています。
ちなみにナギの愛称はないです。
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