過去編-あんたには勿体無いわ
鞘から抜くと、刀身に魔法陣が刻まれていた。
「あれ、これって…」
見覚えのある模様。雪の結晶の様なエンブレム。
「あら?私が見た時と違う気が…」
と風見の言葉に、私は固まった。まさかこれはーーー
「霰師匠、自分の名前に因んで刻んだのかもなぁ」
日向がボソッと呟く。
「もしかしたら、遺作として記念に刻んだのかもしれないわよ」
「それなら弟子である俺に渡せよ」
「あんたには勿体無いわ」
私を挟んで、風見達が言い合いをする。ルカに助けを求める眼差しを向けると、駒の配置を終えたルカが溜息混じりで風見と日向を注意した。
「ナギが困ってるーーー二人共、もう少し離れろ」
ギリっと睨むのは、私と風見の距離。ルカは風見の事をどう思っているのだろう…。
喧嘩を売られた風見は「何よ?」と睨み返す。が、私がそれを制した。
「取り敢えず、この魔道具を賭けて勝負してるって事でいいのか?」
屋敷で見つけた宝箱の中には、魔道具と共に書類が入っていた。それは、霰さんの魔道具つまり遺品について、何が誰へ、と言う事が書かれたリストだったのである。
私の問いに、全員が頷いた。
「つまり、霰さんが残した物の中で誰宛の物か記載されていない魔道具を取り合っていたって事か」
私は至極端的にまとめた。先程は気付かなかったが、机の上にトーナメント表が置いてあった。日向は早々に負けており、風見とルカの勝負は、決勝戦だったらしい。
「開発部の連中は、物より理論を遺して欲しかったみたいだけどな」
ルカの言葉に、私は「そう言えば」と思い出す。
あの屋敷には、専門書はたくさん置かれていたが、霰さんの書いたレポートの類はなかった。あったのは私への書類ぐらいである。
「遺品の殆どが、今までにない性能を有していたらしいわよ」
けど、何の理論に基づいているのか分からない。故に、生産も出来ない。あれらは全て、オーダーメイドと思った方がいい。
「取り合いが起こったって事は、これは量産型か。なら、使える人間は限られてるだろう?」
私やルカは量産型魔道具の条件から外れている。風見の様な全能者なら、四大元素のどれが付与されていようと扱えるが、ルカはそうはいかない。
チラリとルカを見た。ルカは何も言わず、風見が席に着くのを待っている。ルカに無視されたのが少し悲しくて、今度は風見に目を向けた。
「風見も、既に使い慣れた武器があるんだから…」
と言うと、風見は片目を閉じて得意げな表情を浮かべる。