過去編-アレは賭けか
地面に降ろされた私は「さてっ」と腰に手を当て、周囲を見回した。当然、真っ先に目に入るのは、宝箱だ。
「何か書いてあった?」
「いや、何も」
ふむ、と今度は腕を組む。
先程のアレは、私に対する罠だった。なら、こちらも罠である可能性が高い。
「開けたら毒ガスとか発生したり?」
「恐ろしい事を言うなよ…」
私の代わりに書類を拾っているルカが突っ込んだ。
「霰はアルカナを恨んでいたのだろうか」
「どうだろう…」
殺されかけたのだが、どうもそうとは思えない。
書類を全て拾い終えたのか、ルカが隣へとやってきた。
「"二人で"って言っておきながら、お前が狙いって事だとしたら、もう一人は単なる被害者だぞ?」
ルカの言葉に、私は「そうなんだよなぁ」と唸る。霰さんが無関係な者を巻き込むとは思えない。
「一人目が私になるように、あんな風に遺言状を書いたって事は分かる。けど、二人目の候補者なんて他にもいたしなぁ」
確かに、ルカが選ばれたのにも理由がある。しかし「全能者の風見でもいいのでは?」と言う案も出たのだ。
「あっ」
その時、脳裏に閃く。そうだ、あいつ。珍しく言っていた。
気を付けろよ、と。
その瞬間、とある考えが浮かぶ。そうだ、鵠沼はあぁ言う奴だった。
「おいっ!大丈夫なのかよ!?」
ルカの止める声を無視して、私は宝箱の蓋を開けた。
そこには、詰め込めるだけ詰め込んだ、様々な魔道具が入っていたのだった。
翌日、私は鵠沼の執務室にいた。
「忘れていたよ、あんたは放任主義だって事を」
「咎められる様な事はしていない」
そう、鵠沼は何もしていないし、嘘は吐いていない。霰に協力したと、言える程の事はしていない。何をしたのかと言えば、黙っていた、それだけである。
私は「あぁ、そうだな」と不機嫌に睨んだ。
「アレは賭けか」
「お前の好きな様に捉えろ」
鵠沼は目を伏せた。おそらく、かつての事を思い出したのだろう。
かつて、私がミランダを嵌めた時の事を。
そして霰さんが、私を嵌める為に言ってきた事を。
「霰はお前に対して、どう接すればいいのか分からなかった」
ミランダに手を掛けた事に対する怒り。だが、ナギが復讐をやらなければならない理由も知っている。
「故に、これしか出来なかったのだ」
まずは遺告状にて。
"カラクリ屋敷"などの書けば、当然、みんな警戒する。そして誰へ宛てたのか分からなければ、必然的に私が当てられると簡単に想像がつく。