過去編-お前向けだろうがっ!
「此処か」
私とルカはしんしんと降る雪の中、目的地である峠の洋館に到着した。ルカは門の向こうに建っている館を見る。ゆっくりと上まで見上げた。
「霰のカラクリ屋敷」
門扉の上にある正三角形のエンブレムが、何故か不釣り合いな気がした。
アルカナ本部にて、私は眉間に皺を寄せていた。
現在は使われていないカラクリ屋敷。主人は先日他界し、遺言状により屋敷はアルカナの物となったのだが、
「なかなか厄介な人物だったんだよなぁ」
私は資料を見ながら呟く。その呟きに、その場にいた者全員が「貴女には言われたくないと思っていますよ」と内心で思った。しかしそれを言えるのは
「自分を棚に上げて言うな」
ルカ達だけである。私は「私のどこが厄介だと?」と睨んだ。
「元々、この建物の引き受け人は日向の予定だったのに」
「俺には荷が重い、無理、死ぬ」
師匠も酷いよなー、とルカの隣で仕事をしていた日向が、他人事のように呟いた。私は呆れた溜息を吐く。
「全く…霰さんもなんて事を」
パサッと机の上に書類を投げ置く。資料には、かつての所有者の詳細と屋敷の概要、遺言状のコピーが添付されていた。
「日向は何も聞いていないんだよな?稀代の魔道具師、霰さんに師事していたくせに」
「あのなぁ!あの人は超が付く変人なんだよ!俺のまともな頭が、侵されなくて良かったと思えっ!」
日向の叫びに、私はジト目を向けた。お前の頭がまともだと?と目で訴えると、日向は「お前こそっ」とビシッと指差してきた。
「遺言状の内容からして、お前向けだろうがっ!」
「私の名前どころか"二人で"って書いてあるだけで、誰宛なのか分からないだろ…」
それに…と私は目を細めた。
「私淑していたけど直接何かを教わった事はないし、師匠が亡くなった日から、霰さんは私を嫌っていたからな」
嫌っていた、と言うより距離を置かれたと言った方が適切かもしれない。「そう言えばそうだな」と日向は頷いた。ルカは自分に分からない話題で、少し口を尖らせる。が、気にしない。
幹部で古株の何人かは、私が師匠を手に掛けたと気付いている。そしてその理由も、薄々勘付いているだろう。
「晴れるといいけど…」
私は窓の外を見た。空模様は曇り。
スケジュール上、どうしても明日しか空いていないのだ。どうかこれ以上、天気が崩れません様に、と願ったのだった。