解説-久し振りに使ったよ
ーーーナギ、すまない。
それが、師匠の最期の言葉だった。あの後、およそ5時間後に私達は救出された。そして師匠はーーー
「まさか、ミラが死ぬとはね」
「……」
葬儀が終わり、一人で師匠の墓の前にいた私に常盤が声をかけてきた。私は見向きもせず、ジッと墓標を見つめる。
無反応の私に、常盤は勝手に話し始めた。
「今回の件、色々と腑に落ちないんだよな。ドゥンケルシュタールがあるかもしれないってだけで、幹部クラスを二人も派遣した事は勿論、ドゥンケルシュタールの存在自体がミラに隠されていた」
常盤は私の隣に来る。
「あと、黒い人工繊維が至る所に見つかって胡散臭さ満載の癖に、早々に現場検証が打ち切る事を了承したり」
「……」
それでも反応しない私に、常盤は鋭く目を細めた。「なぁ、ナギ」と一拍間をあけ、
「お前、わざと任務の内容を流しただろ」
「……」
常盤のその言葉は、おそらく確信をもって聞いてきている。
私はようやく常盤の方を向くと
「アテナ様は全てに復讐するのなら、と言った」
その言葉の意味を、常盤は知っている。やはりそうか、と呟くと常盤は私に背を向けて帰って行った。
再び一人になった私は、誰に聞かせる訳でもなく呟く。
「私は貴女を慕っていましたよ」
憎んでなどいない。恨んでなどいない。嫌ってなどいない。
感謝以上に、家族愛に近い気持ちを抱いている。
それでもーーー願う気持ちはなくならない。
今回、私がやった事は3つ。
一つは、常盤が聞いてきたーーーアルカナ派だけに任務情報を、1ヶ月も前に流した事。
二つ目は、ミネルバ派に情報が行かないよう、鵠沼に口止めしていた事。
「アテナの眷属と言う特権、久し振りに使ったよ…」
神の眷属とは、簡単に言えば神と契約した者の事。
真理を操る力で願いを叶えてもらう為、その対価を払う者。
そして眷属は、"願い"に関係する事柄のみ、神から加護ーーー所謂、特権を貰える。
「まぁ、私の場合は特別な力とか貰ってないんだけどね」
私の場合、アテナの名を出して鵠沼を黙らせただけである。ーーーそして、それで充分なのだ。
まさかの犯人!!